6月に入り、そろそろ初夏の足音が聞こえてくる昨今、皆さんお元気ですか?

……なーんて柄にもなくかしこまった調子でスタートしたのにはワケがあるんです。実は今回、ある会社の新入社員研修を見学することになったのですよ。半導体製造装置や精密機械加工製品などを製造しているテクダイヤさんという企業で、今年は8名の新入社員が入社したのだとか。ちゃんとした研修を見学するのだから、そりゃあ柄にもなくかしこまっちゃうってもんですよね。

ちなみになぜ僕がお邪魔することになったのかというと、マイナビの研修を担当している部署から「新しく開発した若手向けビジネスシミュレーション研修『ムビケーションスタイル』に自信があるからとにかく取材に来てくれ」と熱いコールをうけたわけです。僕ももともとはサラリーマンだった時代に新人研修を受けたこともありましたが、だいたい事前に聞いていた通りの研修内容で、「研修なんてやっぱりどれも似たり寄ったりか」と思った経験があります。

しかし、「画期的」というからには、何か面白いものを見せてくれるんでしょう?

さあ、研修にお邪魔してみましょう。

テクダイヤさんにお邪魔します

映像の男性から話しかけられる

入室してみると、そこにいたのは今年入社した新入社員の皆さん。4人でチームを組み、何やら真剣な表情で話し合っています。

……と、しばらく眺めていると、部屋の壁にあるスクリーンに映像が映し出されました。ん? これってパワーポイント? ……じゃないか。なんだろう。

壁に映像が映し出されました

興味深く見ていると、映像に出てきた男性がこちら(つまり映像を見ている新入社員)に向かって何やら話しかけてきました。これって何だか……テレビドラマみたいだぞ。

こちらを見て話しかけてくる男性

そう、「ムビケーショスタイル研修」とはつまり、「ムービー」「シミュレーション」「エデュケーション」を合わせた造語だったんですね。そのまま訳すと「映像模擬教育」となります。

仕事の「あるある」を疑似体験できる

ムビケーションスタイルでは、ストーリー仕立てになっている映像を流し、それを見る形で研修が進んでいきます。といっても、単に映像を見るだけではありません。研修を受ける僕らは、映像の中に出てくる会社の一員になったつもりで、社内で起こるさまざまな課題に対応し、チームを組んで対処していくことになるのです。

ポイントは、このドラマの状況設定です。

あなたは研修会社であるマイエデュケーションに出向社員として勤務しています。そこにいるのは、厳しい教育係や、頼れる上司、ちょっと頼りない先輩などの個性的な社員たち。あなたはマイエデュケーションで、議事録の作成やグループワークテーマ選定などのさまざまな業務を遂行していくことになります――。

どうでしょうか。何だかものすごく"あるある"な設定だと思いませんか? こういった、実際の現場をシミュレーションした研修はこれまでにもなかったわけではありませんが、その場合でも「先輩役の人」や「上司役の人」が実際に研修会場に現れて、「あなたは◯◯会社の社員です。◯◯という状況を設定して、実際に受け答えしてみましょう」みたいな研修の進め方をするのが常でした。

僕もそういう研修を受けたことがあるのですが……それって全然リアルじゃないんですよね。例えば僕がA社に入社して研修を受けたとして、「あなたはB社の社員です」って言われても、「いや、A社だし」ってなるじゃないですか。もうそこからして「リアルにする気ないだろ」って感じなんですよね。

それがこのムビケーションだと、「テクダイヤからマイエデュケーションに出向した社員」という形なわけです。あくまでも、自分は「テクダイヤの社員」であって、「マイエデュケーションには出向しているだけ」なんですね。たしかにこの設定なら自然です。自然というのは、「実際にありえる状況」ということです。

ちゃんとマイエデュケーション社の会社案内まで作っています

なんと、取引先の会社(もちろん架空)の会社説明まで!

リアリティへのこだわりは他の場面にも表れていて、例えば登場人物がどれも本当にいそうなキャラクターなんですよね。教育係として指導してくれる女性社員は仕事はできるんだけど、厳しい人。頼りない先輩は、抜けているんだけどどこか憎めない人。そして上司は人望が厚く、随所にアドバイスをくれる頼れる存在。「半沢直樹」とは言わないけど、ドラマとしてもちゃんと設定を作りこんでいるのが好印象です。

時々こうしたキャラクターが登場して案内役を務めてくれます

映像に名前の出てくる上司が実際に登場

さて、先ほどの映像が終了した後、今度は講師の方が登場しました。今度は映像ではなく、本物の講師が現実に登壇(ややこしい)して、新人の皆さんにアドバイスを行っています。この方は吉田さんといって、映像にも名前が出てくる優秀な上司。もちろん、「吉田さん」という名前は仮名です。

真剣な表情で話し合いをする新入社員の皆さん

アドバイスを受けて、またテクダイヤの新人の皆さんがチームで話し合いを始めました。どうやらプレゼンテーションの計画を練っているようです。実はここまでの流れとして、新人の皆さんはすでに一度プレゼンを行い、ダメ出しを受けています。そこで上司からもらったアドバイスをもとに、次のプレゼンを練り直しているというわけ。がんばれ新人さん!

これだけ没入感が得られるのもムビケーションならでは

映像と実際の講義をミックスすることでリアリティを出す「ムビケーション」ですが、これを企業として導入するメリットは、「効果が高いにもかかわらずコストがあまりかからない」ことだそうです。

例えば、この映像と同じことを現実に役者を使ってやろうとすると、とんでもない金額がかかるそうです。オフィスのセットを組み立てるだけでいくらかかるんだって話で、現実的ではありません。

もうおわかりですよね。この部分を映像にすることで、大幅にコストカットできるのです。マイエデュケーションへの出向という形なので、企業によって映像自体を作り変える必要もありません。

仕事でいろんな目にあう前の心構えにも良い

最後にテクダイヤの代表取締役・小山真吾氏に今回の研修を導入した感想を伺ってみたところ、「企業にとって、入社前の学生はお客さまなので、どうしても見せられない面があると思います。それが入ってから手のひら返しをくらい、ショックを受けてしまうわけです。正直、社会に出たら理不尽なこともあります。でもこの研修では、そういった社会の"あるある"な部分を体験できるので、心がまえができて良いと思いますね」と満足そう。

また、「最近の若手社員は、みんなとても優秀です」としながらも、「一方で"人とぶつかりたくない"という考えが強いように思います。いい意味での"あばれもん"が少ないというか」と、若手社員が抱える課題についてもコメント。

「弊社の心得として"空気を読む人間になるな、空気を作る人間になれ"と常々言ってるので、今後国際競争に勝てるような人材になってほしいですね」(小山社長)

ってことで、たしかに「ムビケーション」はこれまでになかったような新しい研修に仕上がっていたのでした。

僕も新人のときにこの研修を受けさえしていたら、もうちょっとちゃんとした大人になれたかもしれないのになー。残念だなー。ムビケーションさえあのときあったならなー(言い訳)。