興行収入100億円、観客動員数900万人を突破するなど、ディズニー映画『アナと雪の女王』が大ヒットを記録している。字幕版と合わせて公開された日本語吹き替え版で、エルサ役を演じたのが女優・松たか子。その主題歌「Let It Go」の歌声は、ネットでも大きな反響を呼んだ。この訳詞を担当したのが、翻訳家の高橋知伽江さんだ。

映画『アナと雪の女王』の翻訳を担当した高橋知伽江さん

37日間での興収100億円突破は、日本でのディズニー映画史上最速。全世界の歴代アニメーション映画で歴代1位、全世界の歴代興行収入記録で6位(11億2,917万ドル ※4月21日現在)となるなど記録ラッシュの本作。反響は映画のみならず、サントラがオリコンのアルバムランキングで6週連続トップ10入りを果たすなど、劇中歌にも及んでいる。

26日から新たなバージョンとして、「3D日本語吹替版」が全国上映を開始し、一部劇場では映画に合わせて一緒に歌うことができる特別興行「みんなで歌おう♪ 歌詞付版」の上映も開催。世界25カ国語で歌った主題歌「Let It Go」の映像で、松たか子が担当したパートが話題になったことが多くのメディアにも取り上げられるなど、劇中歌もブームの火付け役に。

高橋さんは、本作の全劇中歌の翻訳を担当。まずは映画全体を見てから、作品が伝えるメッセージを把握し、そこかから訳詞に取り掛かった。「曲を繰り返し聴いて訳していくのですが、最初に考えたのはキーワード(例えばLet It Go、Let It Goの部分)をどう訳すかでした。これが映像の場合、一番難しいところです。映像をよく見て、口の動きが目立つところや、動きが特に意味を持つところがあるかどうかはよくチェックしました」と高橋さん。

また、「歌の中でエルサの心情がどんどん変化していきますので、それを的確に表現できるように気をつけました。なんといっても、たびたび顔がアップになるので、口の動きに合わせねばならないところが多く、とても大変でした」と苦労話も明かす一方、「私が訳したのは去年の秋で、誰もこの歌を知らない段階でした。この映画の中ではもっとも苦労したので、今こうして多くの人に愛されているのはうれしいですね」と"アナ雪旋風"を誰よりも喜んでいる。

こうして脚光を浴びると一見華やかだが、日々の積み重ねが実を結んだ結果とも言える。「日本語の特性からいって、英語をそのまま訳しても曲に入りきりません。そのため、歌の大事なエッセンスを抜き出して歌詞にこめるようにするので、日本語のボキャブラリーを豊かにするように気をつけています」という心がけから、「LET IT GO,LET IT GO」のサビが「ありのままの」と訳された。

「ありのままの」は、日本語としての音は6つ。本編では口の形がアップになるため、3つ目と6つ目の音の母音が「お」に限定されていた。高橋さんは、その制約の中で原語が伝えるメッセージを読み取り、ディレクターと何度もメールで意見交換をしながら「ありのままの」を導き出した。自分を押し殺して生きてきたエルサが、初めて"ありのままの"自分を受け入れようと決意するフレーズ。高橋さんは、この部分について「美しくて力強い」と表現する。

劇団四季に在団していた当時、戯曲やミュージカルの訳詞を担当したことが、この仕事をはじめたきっかけ。東京外国語大学出身だが、専攻が英語ではなくロシア語だったため、独学でスキルを身につけていった。「楽曲を訳すということは何度やっても、つくづく難しいと感じます」と語る高橋さん。翻訳の仕事と「苦労を面白がるしかないかなと思います」と向き合う中で、「言葉が音にぴたりとはまったときは快感ですね」という魅力にたどり着いたのだという。



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