ビジネスパーソン向けイベントコミュニティ「SHAKE100(シェイクハンドレッド)」で1月21日、経済ジャーナリスト 木暮太一氏と、元陸上選手でスポーツコメンテーターを務める為末大氏による『「頑張ってもムダ」は本当か!? ~僕らが生きるこんな時代の戦い方~』が行われた。

イベント開催時は始まっていなかったソチ五輪も無事終了、それぞれの選手たちの結果やそこから生まれるドラマに自分を重ねあわせた人も多かっただろう。『あきらめる力 勝てないのは努力が足りないからじゃない』(プレジデント社/1,500円+税)を著した為末さん、『カイジ「勝つべくして勝つ!」働き方の話』(サンマーク出版/1,500円+税)の話の中に、どのように生きていくべきなのかヒントが隠されているかもしれない。

スポーツ選手は、引退後をどう過ごすべきなのか

為末大(ためすえだい)さん。1978年広島県生まれ。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダルを勝ち取る。陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。2012年、日本陸上競技選手権大会を最後に25年間の現役生活から引退。現在は、一般社団法人アスリート・ソサエティ、為末大学などを通じ、スポーツと社会、教育に関する活動を幅広く行っている。著書に『諦める力 勝てないのは努力が足りないからじゃない』(プレジデント社)など

まず提示されたのは「20代はどんな人になりたいと思っていましたか? それは実現していますか?」という質問だ。「とにかく30歳のときにはオリンピックに出て、世界で1番になるというのが目標でした」と語るのは為末さん。

為末「けっこういい線いってて、23歳でメダルをとったので、あとは段階を上げて金メダルとるだけだと思ったのですが、そこから浮き沈みして…結局もう1回メダルは取れたのですが、それで終わってしまいましたね」

木暮「引退後について、現役の選手はどう考えているんですか?」

為末「現役時代は、引退後のことはあまり考えてないですね。実は一番大きな問題は、『現役時代の栄光は引退後も持ち越せるけど、能力についてはほとんどの分野で応用できない』ということなんです」

木暮「一線で活躍されていた方が、別のフィールドに行ったときは歯がゆい思いをするのではないでしょうか」

為末「メダルをとった、でもS級の有名人ではない…という選手にとって一番やっかいなのはプライドだと思います。知名度はあるけど、実際の職業として、例えば営業に行かなければならないとき、このギャップに耐えられない人もたくさんいますね。実は一番大切なのは『プライドを捨てられるか』ではないでしょうか」

為末さんによると、選手たちが一番持っていないのは「戦略性」だという。オリンピックの選手たちは平均して8~10歳のときから競技を始めるため、戦略性をもって人生の選択を行った経験が少ない。目の前の目標をクリアするような細かい戦術は得意だが、ビックピクチャーを描くのは苦手な人が多いと言うのだ。ただ、営業のように積み重ねがきく世界に行けば能力を発揮する可能性が大きい。

「独立する」という目標は会社員生活にどんな影響を?

木暮太一(こぐれたいち)さん。1977年生まれ。経済入門書作家、経済ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部を卒業後、富士フイルム、サイバーエージェント、リクルートを経て独立。学生時代から難しいことを簡単に説明することに定評があり、著書に『カイジ「勝つべくして勝つ!」働き方の話』(サンマーク出版)、『今までで一番やさしい経済の教科書』(ダイヤモンド社)など多数

一方、小さいころから「いつか独立するんだ」と言われて育ち、サラリーマン生活を送りがらも見事夢を実現した木暮さん。

為末「やっぱり独立するんだと思って会社にいる人と、そうでない人と、見ているものは違いましたか?」

木暮「これはいい面も悪い面もあります。いい面は、いろいろなビジネスチャンスをアンテナはって見れるところ。悪い面は本業が片手間になるところ…と言ったら、誤解されるかもしれませんが、『いつか独立をするからまあいいや』という気持ちが働いてしまうこともときにはありました」

今独立を考えている人は、そういった気持ちをコントロールできなければ、本業にも独立準備にも打ち込めずつらくなるだろう、と木暮さんは語る。為末さんも木暮さんも、20代のころ描いた夢を実現しての言葉であり、会場は熱心にメモを取りながらうなずく人でいっぱいだった。

これから練習したら出られそうなオリンピック競技とは?

また、2020年に決まった東京オリンピックにちなんで出たテーマは「これから練習したらオリンピックに出られますか?」。これは木暮さんが為末さんに質問したかったものだそう。

為末「単純な確率論の話で、100m競争のように母数が多いものはまず難しい。既に強いチームのレギュラーメンバーにならなければいけない競技や、バスケットボールやハンドボールのような、フィジカルで重ねていく競技も難しいですね」

ひとつひとつ可能性を検討した上で、アーチェリー、ライフル、近代五種競技をあげた。「これを言ったら怒られてしまうかもしれないんですが、単純に確率論で考えて攻めていくと、競技人口が50名をきっているものなどは可能性が高いでしょう」と、あくまでも母数から見る確率から客観的に語る為末さん。

為末「1番でなくても幸せに生きていく、というのも立派な生き方だと思うんです。でも、何かになりたいと思うのであれば、社会的成功をおさめられやすいもの、おさめられにくいものを考えた方が良いでしょう。僕自身は元々100mをやっていましたが、『これは厳しい』とハードルに転向しました。ハードルの方が勝ちやすいと思ったからです。勝ちたいのであれば、戦略的にどこを選ぶのか、自分に何が向いているのか、ある程度読んでいかないと難しいと思いますね」

木暮「これってビジネスの世界でも一緒ですよね。誰もが孫正義さんみたいになれるわけでもなく、誰もが藤田晋さんみたいになれるわけでもない。ぼくがサイバーエージェント時代に藤田さんと2人で仕事をしていたとき、圧倒的な力の差を感じて『この路線を目指すのはやめよう』『最先端を狙わない』と思ったんです。ネットビジネスはいろんな人が参入してくるから、すごく競争率が激しい。そんなところで勝つ自信がないので、自分が築いた資産を使いやすいフィールドで戦っています」

為末「不思議なもので、恋愛に関しては、みんな『頑張れば何とかなる』と思わないのに、夢に関しては初恋から結婚に行くような人をたたえますよね(笑)。僕は『(今回の夢は)合わなかっただけ、次に行こう』という一言で済ませてもいいんじゃないかと思います」

木暮「頑張ることを否定しているわけではないんですよね。『頑張ること自体に意味がない』と思っている人が世の中にたくさんいますけど、それは単に『芽が出ないフィールドで戦っている』だけなんじゃないか、と思います」

後編へ続く