松たか子が主演を務め、山田洋次監督がメガホンをとった映画『小さいおうち』が25日に公開を迎える。原作は、第143回直木賞を受賞した作家・中島京子の同名小説。昭和初期の赤い屋根の"小さいおうち"を舞台に、恋愛事件に揺れ動く2人の女性の運命と、その時に封印された秘密を通じて、戦時下から現代に至るまでの"本当の歴史"を描いた。

黒木華
1990年3月14日生まれ。大阪府出身。第37回日本アカデミー賞新人俳優賞ほか、多くの映画賞で新人賞を受賞。NODA・MAP番外公演『表に出ろいっ!』(2010年)のヒロインオーディションに合格し、中村勘三郎と野田秀樹との3人芝居で娘役を射止めた。『東京オアシス』(2011年)で銀幕デビュー。『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)で声優に初挑戦し、『シャニダールの花』(2013年)で映画初主演を果たした。2014年にはNHK連続テレビ小説『花子とアン』の出演や映画『銀の匙 Silver Spoon』の公開が控えている。
撮影:大塚素久(SYASYA)

本作で、"小さいおうち"に女中として奉公した布宮タキを演じたのが、昨年4本の映画に加え、堺雅人主演のドラマ『リーガルハイ』に出演し、注目を集めている女優・黒木華。タキはその家の妻・時子(松たか子)と夫の部下・板倉正治(吉岡秀隆)との"許されない恋"に気づいてしまう。

学生時代に舞台『罪と罰』を観劇して以来、松に憧れていたという黒木。松との共演で刺激を受けながら、彼女は"許されない恋"をどのように捉え、そして演じたのか。さまざまな役柄に変幻自在になりかわり、周囲の熱視線も「好きなことをやらせてもらっているだけなので分からない」と演じることに没頭する黒木。彼女のその礎は、両親の存在にあった。

――出演が決まった時はどのような心境でしたか。

まさか自分が山田監督の作品に、こんなに早く出られるとは思ってなかったので、すごくうれしかったです。松さんのこともすごく好きだったので、ご一緒できてすごくうれしくて。プレッシャーというよりは、一生懸命頑張らなくちゃという思いが強かったです。私が演じたタキの目線で描かれている作品ではありますが、メインは松さんが演じた時子さんなので、重責を負っているという感覚はありませんでした。

なによりも山田監督という、これまでたくさんのすばらしい作品を作ってこられた方とご一緒できることの方が大きく、うれしいことでした。撮影中は現代のシーンを見ることができなかったのですが、試写ですべてがつながった作品を見て、すごくすてきな作品なんだとあらためて実感しました。

憧れの松たか子(右)と共演した黒木華

――試写などでの周囲の反応は?

たくさんの方が今までの山田監督の作品とは違うとおっしゃっていました。私よりも、もっと詳しいファンの方はその変化がさらに分かると思います。今回の作品は監督が「挑戦」とおっしゃっていました。すごくスキャンダラスな物語の中に、山田監督作の温かみだったり、日本映画としての良さが消えずに残されていて、さらに新しい領域に行っているというのは、すごいなと思いました。

――山田監督の演出はいかがでしたか。

演技に対する指示よりも、その時代のことや、ご自身で体験されたことを優しく教えていただくことの方が多かったです。

――完成披露の舞台あいさつでもおっしゃっていましたが、昔から松さんに憧れていたそうですね。初共演はいかがでしたか。

うれしかったです。皆さん作品のことについて考えていらっしゃっていて。すばらしい俳優さんなので当たり前のことなのかもしれませんが、松さんは集中力が高くて、山田監督の要望にも俊敏に反応したり、意見を出したり。そういう姿を間近で見ることができて、勉強になりました。俳優としての姿勢を見習いたいと思います。

――オーディションで出演が決まったそうですね。

オーディションは、着物を着て、畳をふいている時に奥さまに呼ばれて出て行くというシチュエーションを演じました。手応えは全然なくて(笑)。緊張していたんですけど、山田監督に会えるのが本当に楽しみだったので、楽しくできればいいという気持ちで臨みました。もちろん、できれば参加させていただきたいと思っていましたけど(笑)。

――実際の山田組の雰囲気はいかがでしたか。

山田監督独特の優しさがあふれながらも、高い集中力が保たれている空間でした。とっても温かい方なんです。松さんも青年のような方とおっしゃっていましたけど(笑)。映画のことになるとすごく細かいところまで見ていらっしゃいますし、よりよいものにしようというアイデアもどんどん出てくるので、そういうところが山田組の魅力だと思いました。

――タキという女性をどのように捉えて演じたのでしょうか。

タキちゃんはすごく純粋で素直なんですが、それゆえに奥さんのことをとても心配してしまいます。女中さんとして家族をずっと見守り続けているタキちゃんの思いは、意識していたことでした。それから、現代ではやらないこともたくさんあるので、所作などは自然に見えるように心がけました。実際に実家の畳を拭いたりしましたし、料理だったり、お掃除だったり、日常でも通じる部分があることに気付かされました。

――セットなどの世界観も演技の後押しとなりそうですね。

すごく細かいところまで作りこまれていて、その中にいるだけで、生活が見えてくるんです。だからこそ、助けられた部分がすごく多かったと思います。ずっとそこにいるわけではもちろんないんですが、ずっとそこで生活していたようなことが感じられる作りになっていました。