2013年に話題となった「ブラック企業」では、その反対の「ホワイト企業」とはどんな企業か。今回は「働き続ける」と「活躍し続ける」の違いについて経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室長 坂本里和さんに伺った。

ダイバーシティでぶつかる壁

坂本さん:

坂本 里和(さかもと りわ)
1972年生まれ。経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室長、「ダイバーシティ経営企業100選」担当。東京大学法学部卒業後、通商産業省(当時)に入省。ハーバード法科大学院、スタンフォード法科大学院への留学を経て、現部署へ。私生活では4女の母

この2年半で100社を超える企業の方からお話を伺いましたが、大企業に関していえば、みなさんダイバーシティ施策を一生懸命やっているとぶつかる壁というのが大体同じで、勉強会をすると「わかるわかる」って話し合っていますね。

--例えばどういう壁ですか?

育休とか時短の制度は相当進んでいるので、出産で仕事を辞める女性はほぼいなくなっている一方で、時短社員の扱いをどうするか、周りの不満をどうするか、現場のマネジメントをどうするか、時短を長くとっている人のキャリアをどうするか…というのが共通の悩みだと思います。

最近よく「女性だけの支店をつくりました」とか、「ママの視点での商品開発」といった話を伺います。第一歩としてはとても良いのですが、最終的な姿ではないのではないか、という気もしますね。それまで営業として頑張ってきた人だったら、そのままキャリアを発展させていった方が良いと思いますし。

ただ、だんだん社会に女性社員が増えれば変わっていくとは思います。例えば医薬品メーカーのMR(医薬情報担当者)だったら、今までは夜も病院を回ったり、接待があったりということも多かったそうですが、接するお医者さんにも女性が増えてくると、全体として「日中にやろう」という風潮にもなってきます。そうなれば、MRとしてのキャリアがそのまま続けられると思うんです。

--たしかに、営業などが続けられないのは、お客さん対応が多いからというのが多いですね。

社会として全体的に女性が増えてくると、自然に問題が解消されるし、そうなるとイクメンにとってもやりやすくなるのではないでしょうか。

--なおさら、今後を担う今の女子学生があきらめ気味だともったいないですね。

個人個人の価値観だから、それもひとつの選択だと思うんですが…本当は頑張りたいんだけど「どうせ育児とキャリアは両立しないから」と思っているようだったら、違うんだよと言いたいです。

女性の意識も変えるのが大事

--女性が、育児をはじめて仕事に向き合わなくなるという例も聞いたことがあります。

女性は「マネジメント(上司)が悪い」と思いがちで、マネジメント側は「もうちょっと組織のためにがんばってよ」というのがあって、両者の間に認識ギャップができやすい。やはりきちんと取り組んでいるところは現場責任者の意識も変え、女性の意識も変え…ということをやっています。

私自身も一人目を生んだときは、どうしても気持ちが育児に向いてしまい、仕事に対して消極的になってしまうこともありました。そうなりがちだということを企業もよく知って、育休復帰するタイミングでセミナーを開くなどして、きっちりマインドセットをしてあげることが大切だと思います。厳しすぎると批判されることもあるかもしれませんが、モチベーションがダウンしやすい時期でもあるので、「期待しているよ」というメッセージを発している企業が成功しているようです。

「働き続けやすい」と「活躍し続けられる」は別の軸

女性の立場で企業を評価する際、「働き続けやすい」は、実はひとつの軸にすぎません。実際に活躍しているロールモデルがあるとか、女性が管理職としてある程度の割合で入っているといったことも、別の軸としてあります。そちらも目配りをしてほしいなというのが、一番伝えたいことです。

「働き続けやすさ」と「活躍しやすさ」両軸から見たときの企業の分布図

『ホワイト企業』(文芸春秋社/1,260円)

何となく働き続けやすい企業はいい企業で、活躍もできるんだろうととらえる方も多いと思います。ですが、それは別々の軸で、今、日本企業で一番多いパターンは「働き続けやすいけど、活躍できていない」というところなんです。

例えば就活をするときに、もう行きたい業界は決めているとしたら、その業界の中で企業を比較する際に、「活躍し続けられる」という軸も、持ってもいいのではないでしょうか。例えば、女性管理職比率について、水準ははまだそれほど高くなくても、ここ数年ですごく伸びているとか、活動を具体的にやっていて、それがしっかり情報開示されているとか…最初からそればかりを見なくても良いですが、決め手としては有効だと思います。是非、そういった定量的な企業データも集めて、賢く選んでほしいですね。