皆さん、年末年始をどうお過ごしでしょうか。聞けば今回の冬休みはカレンダーの都合で9連休にもなるそうじゃありませんか! 9て! ああ、会社員時代にそういう年がくればよかったのになぁ……なんて思いながらワタクシは今日もせっせと原稿を書いています。

さて、今回はそんな年末年始にぜひ読んでほしい漫画をチョイスしてお届けしたいと思います。正月は本屋さんも休みかもしれない。取り寄せにも時間がかかってしまう。でも電子書籍なら365日いつでもOK! このメリットを生かさない手はありませんよ。というわけで今回は、マルチデバイス対応電子書籍サイト「Renta!」からオススメの3冊をご紹介します。

カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生

『J-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』(扶桑社刊)

まずは待望の入荷! 2013年のサブカル業界で話題を呼んだ問題作がついに「Renta!」に登場です。作者の渋谷直角さんはライターとしても活躍されており、イラストを交えたポップかつユニークなコラム・エッセイを多数執筆されています。そんな彼の漫画作品「カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生」は、本来商業誌として発売する予定はなかったものですが、紆余曲折を経て扶桑社から発売されるに至ったシンデレラ的作品でもあります。

どうでしょう、読む前からタイトルだけでドキドキする……なんて人もいるのでは? たしかにカフェにいくとよくJ-POPのボサノヴァカバーが流れていて、「いい曲だなぁ。誰が歌っているんだろう」くらいのことは考えたことがあります。しかし、渋谷さんはさらにそこから一歩先へ思考を飛ばし、「カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女がどんな人生を歩むのか」を想像して物語に描いたわけです。そこで描かれているのは、「いい歳」をしながらも夢を追いかけ続け、その過程で泣いたり喜んだり落ち込んだりする一人の女性の姿。有名になろうとしてもがき、余裕と優しさを失ってしまった人間の姿を、渋谷さんは独自の目線からシニカルに描き出します。かなりブラックな成分の強い漫画です。

もちろんそれは渋谷さんが想像する女の一生なので、リアルではないのかもしれないけど、少なくとも「リアリティがあるストーリーだな」と思わせられるだけの何かを持った作品に仕上がっています。ほどほどにリアルで、ほどほどにドラマチック。そして一部の人にとっては毒がたっぷり。このさじ加減がとてつもなく上手です。

表題作の他にも『空の写真とバンプオブチキンの歌詞ばかりアップするブロガーの恋』『ダウンタウン以外の芸人を基本認めていないお笑いマニアの楽園』『口の上手い売れっ子ライター/編集者に仕事も女もぜんぶ持ってかれる漫画 (MASH UP)』など、賛否両論ありそうなタイトルがずらり。実際、ネットでの賛否もハッキリと分かれているようです。でも、だからこそこの作品は読んでおく価値があると断言できます。

ナナとカオル

『ナナとカオル』(白泉社刊)

実写映画化もされた作品なのでご存知の方もいらっしゃるでしょう。「SM」をテーマにした漫画……というと、「なんだ、ただのエロ漫画か」なんて避けられそうだけど、ちょっと待って! 「ナナとカオル」はそんじょそこらのエロしかない漫画とはまったく違う、とてつもなく面白いSM漫画なんです。

SMグッズを集めてはSM的妄想にふけるのが趣味の冴えない高校生・カオルと、幼なじみで学校のヒロイン的存在のナナ。ダメ男と完璧女という構図はハーレムもののラブコメなんかでよく見かけるパターンですが、本作はここにSMを取り入れることで見事に面白さの化学反応を起こすことに成功しています。

何よりも感心したのは、SMにおいて大事なことは精神面であるということをしっかりと描いていること。筆者は以前、SMバーを取材したことがあるのですが、そこでSM嬢の方に教えていただいた"SMの何たるか"がきっちりと表現されているのです。

もちろんエロくないわけではなくて、エロ描写もしっかりしています。というよりも、作者の画力が高く、絵も魅力的なので、そんじょそこらのエロ漫画よりもよっぽどエロいです。ただし、エロはエロでも一線を超えることはなく、あくまでもソフトSMとカジュアルなエロ描写。それよりも、精神面を描くことを再重視しているのがすばらしい。女性にも文句なしにオススメできます。

ちょっとでもSMに興味のある人はもちろんですが、「SMって縛ったり鞭で打ったりして、痛いのが気持ちいいんでしょ」などという、かつての筆者のように浅い見識しか持っていない人にこそ読んでもらいたい作品です。

走馬灯株式会社

『走馬灯株式会社』(双葉社刊)

死ぬ前に自分の人生を一瞬で思い出すことを「走馬灯」といいますが、そのキーワードを膨らませて物語にしたのが『走馬灯株式会社』です。テイストとしては「世にも奇妙な物語」に近いものがあるでしょうか。一話読み切りで、ハッピーエンドもあればバッドエンドもあり、なんともいえない読後感を提供してくれます。

『走馬灯株式会社』は自分の視点で記録された人生を観ることができる不思議な会社。どこにあるのかもわからないこの会社に、時折ふらりと迷い込む人がいます。妻と子を失った男性、集団自殺希望の若者3人組……など、多種多様な人々は、この会社で自分の人生が収められたDVDを見ることになります。さながら走馬灯のように自分の人生をゼロから見返していくことで、彼らは今まで知らなかった過去の秘密や、心の奥底にしまいこんだはずの秘密と再会するのです。

短編集なのでそれぞれの話は短いのですが、起承転結が非常にしっかりしており、先を読ませないストーリーはどれも秀逸です。サクッと読めてちゃんと楽しいこの一冊、オススメですよ!