観客を信頼して作られた作品

――興行収入10億突破、累計観客動員数100万人突破おめでとうございます。やはりリピーターの方が多いのでしょうか

岩上氏:うれしいですね。ちゃんとした統計は見ていませんが(リピーターも)いらっしゃるようです。Web上などで感想を見たりもしています。

――見る側にとってレベルが高いというか、敷居が高い部分があるかと思いますが

岩上氏:新編は観客を信頼して作られている映画だと思います。敷居が高いという面はありますけど、それをこういう形で多くの人に見てもらえているというのが、とにかくうれしいです。(観客が)ちゃんと"読み込む"というか、しっかり内容を見て受け止めてくれていると思います。

――映画館で観客の反応をご覧になったりも?

岩上氏:はい。終わった後のどよどよ感が(笑)。100人が100人同じ感想を持って「面白かった」とスパっと終われる映画ではないと思うので。人それぞれ捉え方が違い、見終わっても家にまで持ち帰ったり、翌日になっても思い返してしまうような、そういうパワーがある映画だと思います。そこをちゃんと受け取ってもらえていてうれしい限りです。難しくてよくわからない、と切り捨てられてしまう怖さも一部にはありましたからね。

――脚本の段階で、難しそうだと思う部分があったのでしょうか?

岩上氏:いや、脚本はもうちょっとわかりやすかった気が。絵がついたら情報量が増えていて。TVシリーズの時から同様ですけど、そこはアニメを作っているスタッフの熱意と才能ですね。

脚本になかった部分や、上がった映像を見てこうなっていたのかとわかるような、アニメスタッフの創意工夫が込められていて、例えば魔法少女の変身シーンや、過去に登場した魔女が入り乱れて戦っているシーンなどです。ストーリーとセリフは虚淵さんの書いたものを非常に大事にして、そこは崩さず、アニメとしての肉付けを加えていくという形です。

――劇団イヌカレーの空間もそうですか?

岩上氏:絵コンテで大まかなところはわかりますが、映像になるとより"上乗せ"されていいます。エンディング後のほむらのシーンは脚本にはありませんでしたし。ああいうところは、宮本監督に「どういう意味でしたっけ」と聞いたりします(笑)。

――それだけ上乗せされて、スタッフのやりたいことも実現しながら、1本の作品として完成度の高いものにまとまっていることに驚きます

岩上氏:なぜでしょうね……。作品自体が持っている運もあると思います。才能のある人が集まってくるのも作品の運なのかなと思います。

――岩上プロデューサーにとって、『魔法少女まどか☆マギカ』を作るとはどんなお仕事でしたか?

岩上氏:TVシリーズでもそうでしたが、新編を見て改めて挑戦的な作品だと思いました。新編の情報の多さも、アニメスタッフが「今回はここまで」とハードルを決めてがんばるというより、自分たちでどんどんハードルを高くしていった結果、膨大な熱量になったという感じです。テレビでも映画でも、世に送り出す時に半歩先へ行っているものは「受け入れられるのか」という心配も少しありますが、それを面白いと受け止めてもらえたところで本当に作品が完成するのかなという気がします。

――そういう意味では、今回の『新編』は理想的な完成を見たと?

岩上氏:そうだと思います。

――劇場版のパンフレットなどで、新房総監督からは続編に前向きな発言もあったようですが?

岩上氏:可能性はあると思っています。ただ、そこは内容次第。今回これだけの作品ができあがったわけですから、次の『魔法少女まどか☆マギカ』にふさわしいアイディアが出てくるのかどうか、というところですね。まだ本当にゼロなので、新編のラストが今はラストという形です。

作品に「運」があるならば、その頭はプロデューサーが仕掛け、身体はスタッフが作り、尻尾はファンが掴むものと言えるだろう。「掴んでもらえる」という観客への信頼をもって作られた作品ならば、私たちは自信を持って観ればいい。謎解きで作品を探る面白さももちろんあるが、自分自身の理解や思いを素直に、それぞれに受け止めるのが、投げかけられた信頼への回答になるはずだ。

(c)Magica Quartet / Aniplex・Madoca Movie Project Rebellion