映画『夢と狂気の王国』の公開記念イベントが15日、東京・新宿バルト9にて開催され、本作で初めて映画プロデューサーを務めたドワンゴ会長の川上量生氏、Production I.G所属のプロデューサー石井朋彦氏、「スタジオ地図」の齋藤優一郎氏という3人のプロデューサーによるトークショーが行われた。

左から齋藤優一郎氏、川上量生氏、石井朋彦氏

今回のトークショーでは『夢と狂気の王国』はもちろん、アニメ業界人から見た『風立ちぬ』と『かぐや姫の物語』の凄さ、さらに宮﨑駿・高畑勲両監督の人物像などについて濃密なトークが繰り広げられた。本稿ではトークショーの内容をレポートしていく。

この日、新宿バルト9で初公開となった『夢と狂気の王国』は、スタジオジブリの制作現場に密着して撮られたドキュメンタリー映画だ。監督を務めたのは『エンディングノート』などのドキュメンタリー作品で知られる砂田麻美氏。プロデューサーは、これが初プロデュース作品となる川上氏である。ドワンゴの会長でもある川上氏は、2011年にスタジオジブリに"プロデューサー見習い"として入社しており、鈴木敏夫プロデューサーや宮﨑駿監督と親交を深めてきた。本作はそうした経緯から生まれた映画である。

そんな本作を「すごく面白いドキュメンタリーであり、すごくきれいなドキュメンタリーでもある」と評するのは、かつてスタジオジブリの鈴木プロデューサーのもとでプロデュースを学び、現在はProduction I.Gに所属するプロデューサー・石井氏だ。ジブリでは『となりの山田くん』から『ゲド戦記』までの制作現場を経験したという石井氏は、「今までほぼすべてのジブリのドキュメンタリーは見ているが、どのドキュメンタリーとも違って、こんなの初めて見たなという感じ。最初は"夢"の部分が描かれているが、だんだんその夢の中に"狂気"がじわじわと見えてくる」と感想を述べる。

一方で、細田守監督と共にアニメーション映画制作会社「スタジオ地図」を設立し、『おおかみこどもの雨と雪』などを手がけたプロデューサー・齋藤優一郎氏も、「映画づくりにはだいたい夢と狂気の両面がある。皆さんが知りたかった、見たかった部分が描かれている映画。両監督と鈴木プロデューサーを客観的に切り取っていて、映画としてすばらしい」と絶賛。「ジブリの外部の人が撮らないとドキュメンタリーは作れない。砂田監督も川上プロデューサーも第三者で、だからこそ本作が生まれた」のだという。

『夢と狂気の王国』は関係者かそうでないかで見方が変わる映画だという

二人のプロデューサーがいうように、本作にはそのタイトル通り"夢"と"狂気"の両面が映し出されている。最初はアニメ現場の"夢"が描かれ、次第に"狂気"が見えてくる。その二つが切り替わるきっかけとなるのが、宮崎吾朗監督と高畑勲監督の登場の場面だ。

特に「宮崎吾朗監督と川上さんが対峙するシーンが最高」と述べる石井氏に対して、川上氏は「本当は僕個人としては(対峙のシーンは)カットしてほしかったけど、砂田監督が必要だというシーンに関しては残しておこうと」と苦笑しつつ、「クリエイターでもある監督はコントールが利かない。監督といろんな人との軋轢がある中、監督と真っ向から対峙しないといけないのがプロデューサーの仕事」と初プロデュースの実感を述べる。

これに対して石井氏は「監督とプロデューサーの関係はそういうもの」とコメント。時には「向い合って1時間くらい睨み合ったりする」こともあるという。もっとも、そうした軋轢はあっても「作品を一番いい形で作ってたくさんの人に見てもらいたいというゴールは一緒のはず。お互いにゴールに向かってチャレンジをしていけば、最終的には意見も一致するはず」(齋藤氏)であり、だからこそ映画には監督とプロデューサーの両方が必要なのだ。

今回のトークショーは『夢と狂気の王国』公開を記念したものだったが、その中で本作以上に3人が熱く語ったのが高畑勲監督最新作『かぐや姫の物語』である。……続きを読む