歯ぐきのマッサージで、歯ぐきの血流促進や歯周病の前段階である歯肉炎改善の効果を高めることができる(花王の測定より)

日本では成人の8割が「歯周病」と言われており、虫歯ゆえの抜歯に代わって、今日では歯周病ゆえの抜歯が増えているという。歯周病予防には歯垢(しこう)除去が欠かせないが、更に効果を高める方法として、歯ぐきのマッサージが提唱されている。

歯垢1mg中には約10億個もの細菌

そもそも歯周病とは何か。歯と歯ぐきの間には、歯を支える骨である「歯槽骨(しそうこつ)」とクッションのような役割を果たす「歯根膜(しこんまく)」というものがある。歯と歯ぐきの隙間に歯垢が入り込み、歯槽骨と歯根膜が溶けてしまうことで歯ぐきが腫れ、歯は周囲組織の支えを失い、ぐらぐらした状態になってしまう。この状態を歯周病といい、骨が溶け出す前の段階は「歯肉炎」と呼ばれる。通常、歯肉炎の段階では適切なケアさえできればすぐに元に戻せるが、歯周病にまで進行してしまうと、健康な状態に戻すことは難しい。

神奈川歯科大学の山本龍生先生

神奈川歯科大学の山本龍生先生は、歯周病のリスク因子として、喫煙や飲酒、高コレステロールの食事、ストレスなどとともに、ブラッシング(細菌因子)を挙げている。 歯垢1mg中には約10億個もの細菌がいると言われており、歯垢を歯ブラシで取り除くことによって、歯周病の前段階である歯肉炎を抑えることができるという発表もある。

そこに、歯ぐきをマッサージするブラッシングを加えると、更に予防効果が高まると山本先生は言う。動物を用いた歯ぐきマッサージの検証において、歯垢除去だけのブラッシングに比べて歯ぐきマッサージを加えたブラッシングでは、歯ぐき上皮の細胞増殖活性や歯根膜内にあるコラーゲン産生活性が2倍以上になったと発表した。

歯のない「付着歯肉」もマッサージ

また、花王は被験者7人を対象に、歯ブラシだけと歯ブラシと歯ぐきマッサージを、1日3回、2分間実施し、その前後で歯肉炎指数(GI)の変化を4週間にわたって測定した。すると、歯ブラシだけの場合は歯肉炎が28%改善したのに対し、歯ブラシと歯ぐきマッサージの場合は45%の改善が見られたという。

では、具体的にどのようなマッサージをすればいいのか。花王のパーソナルヘルスケア研究所の矢納義高室長は、マッサージは歯と歯の隙間の歯ぐきのみならず、その上に当たる「付着歯肉」部分にも行うことが大切という。

まず、歯と歯ぐきの境目に指を軽く押し当て、横方向に小刻みに動かす。心地よいと思う力加減(200g程度)で、1カ所につき10~15秒程度動かすようにする。次に、奥歯から前歯の中央に向かって指を大きく滑らす。これを3~5回繰り返す。そして、奥歯から前歯の中央に向かって、下から上へ弧を描くようにして指を動かす。上の歯ぐきは、上から下に向かって動かすようにする。

効果的な歯ぐきのマッサージ方法

このマッサージを少なくとも1日1回取り入れることで、より効果的な歯周病対策ができるという。山本先生は理想のブラッシングとして、まず歯磨き粉を付けてない歯ブラシで行い、指でマッサージをした後に、歯磨き粉を付けた歯ブラシで仕上げる方法を提案している。歯ぐきが赤く腫れている、マッサージをすると血が出るなどという慢性的な状態であっても、この歯ぐきマッサージは有効だという。

歯周病は全身疾患の一部であり、頭痛や便秘、不眠といった症状から、糖尿病や腎臓疾患、がんなどのリスクを高める疾患と言われている。毎日の歯ブラシにプラス1~2分でできる歯ぐきマッサージで、より効果的な歯周病対策を心がけたい。