――それでは作品の内容についてお伺いします。まず主人公の銘苅についてはどのような人物として描こうと思いましたか?

三池監督「銘苅については、隙のない超人的なヒーローに仕立て上げようと思えば、大変だけど可能だったと思います。ただそうなると、SPとしての姿とプライベートの姿で、スイッチのオンオフが必要になるんですけど、今回はそこをもっとシームレスな感じで描きたかった。そもそも銘苅は、第一線のSPではなく、あるプライベートな事情から少し余裕のある部署にいる。本当に守らなければならなかった家族を守れなかったという過去によって、何のために誰を守っているのかというのが少しわからなくなっている状態なんですよ。だから、超人である必要はなく、普通の人でいいんじゃないかと」

――それを演じた大沢たかおさんの演技についてはいかがですか?

三池監督「最初に気にしていたのは、芝居の質がこの作品にあっているのかどうか。それをつかむのにちょっと時間がかかったみたいでした。基本的にテレビの芝居と映画の芝居は違っていて、俳優さんたちはスイッチを入れ替えて芝居をする。演技によって伝えなければいけない情報がテレビの場合は何倍も膨らむんですよ。たとえば話しかけられたりしたら、じっとしているわけにはいかないので、何らかのリアクションが必要になる。返事をするなり、目で表現するなり。でも、映画だとその反応はいらない。それを観客にわからせるのは僕らの仕事なんですよ。でもやはり演じるのが役者の仕事なので、それを演じない方向にもっていくのはけっこう大変みたいで。何もしないわけではないけど、表面には出さないわけですから」

――テレビと映画で演技も変わってくるんですね

三池監督「とはいえ、僕らには編集という手段があるので、どういう芝居をされても実は問題ないんですよ。テレビ向けの芝居がどうしても抜けない役者さんだったら、そのまま自由に芝居してもらって、そこは編集で全部切っちゃう。そこを埋めるための画、たとえば引きのカットを撮っておいて、芝居しているところは全部切って、最後の表情だけを使うことで、シーンを成立させることもできる。でも、大沢さんはそれを自分でコントロールして演技をするんですよ。しかもクールに。人に対して、暑苦しいところがない。俺は一生懸命やっているんだから周りも……みたいな感じじゃなく、俺は俺の勝手で一生懸命やっているけど、こんなこだわりはあまり役に立たないよねっていうスタンス。この作品をいい映画にしようという熱気ももちろん持っているんだけど、それを表面に出さないし、周りに押し付けることもない。とても自分に厳しい方だなと思いました」

――清丸役の藤原さんの演技に対して、監督がこだわったポイントなどはありますか?

三池監督「僕は何にもしてないですよ。あの人はああいう人なんじゃないですか(笑)」

――もし監督が移送チームの一員だったら、どのあたりで殺してます?

三池監督「俺が一員だったら……けっこう楽しんでいたかもしれませんね。何か起こらないかなって。DVDなどで改めて観てもらうとわかると思いますが、実は清丸が何か悪いことをしているシーンというのはひとつもない。報道の映像で言われているだけ。でも、観ている人には嫌なヤツというのが伝わる。報道をそのまま受け取って、信じちゃうわけですよ。ニュースでやっているからこいつが犯人で、とんでもないヤツだって勝手に思っちゃう。犯行シーンなんてひとつもなくて、ただ悪態をついているだけなんですけどね。ただそれは、役者にとってはすごく不安なことだったと思うんですよ。何か悪いことをしているシーンがあれば、安心できる部分があると思うんですよ、役作りの上で。でも今回は周りに委ねるしかない。そういう意味でも、全般に見せ場的なものがなく、ただ人間のクズとしか思われないような役をよく受けてくれたなと思います」

――それでは最後にファンの方へのメッセージをお願いします

三池監督「DVDは、原盤を買ってもらっているようなものなので、好きに観てもらえればいいかなと思います。Blu-rayなんか特にキレイですから。将来的には、編集権フリーのような感じにして、俺ならこうやって繋ぐぜ、みたいに自由に編集してもらって、それでコンテストでもやって、その審査員なんかをしてみたいですね(笑)。何か他人事みたいに言ってますけど、それぐらい楽しみ方は人それぞれになると思います。何度も見直してもらえますので、いろいろな視点、たとえば今回は岸谷さん目線で観てみようとか、そういった自由な楽しみ方をしていただけたらいいかなと思います」

――ありがとうございました


『藁の楯 わらのたて』のBlu-rayは2013年9月18日(水)より発売(発売元・販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ)。レンタル、オンデマンド配信もスタートする。なお、9月18日に発売されるのは、「【初回限定生産】藁の楯 わらのたて ブルーレイ&DVD セット プレミアム・エディション(3枚組)」(6,980円)および「藁の楯 わらのたて Blu-ray通常版(1枚組)」(4,980円)。DVD通常版はおっての発売となる。

(C)木内一裕/講談社 (C)2013 映画「藁の楯」製作委員会