本誌既報の通り、ホンダのF1復帰が16日、正式に発表された。マクラーレンとのジョイントプロジェクトの下、パワーユニットサプライヤーとしての参戦となる。同日には緊急記者会見も行われ、本田技研工業代表取締役代表執行役員の伊東孝紳氏と、マクラーレンCEOのマーティン・ウィットマーシュ氏が登壇した。

記者会見に出席したマーティン・ウィットマーシュ氏(写真左)と伊東孝紳氏(同右)が握手を交わす

会見の模様はUSTREAMでも生中継され、16日だけで合計視聴数のべ16万人以上を記録している。当レポートでは、記者会見での伊東氏とウィットマーシュ氏の発言(質疑応答は除く)を、余すところなく紹介したい。

F1を「若い技術者が自らの技術を世界で試し、磨く場」に

伊東氏 : 皆さんこんにちは。伊東でございます。本日はたいへんお忙しい中、急なご案内にもかかわらず、私どもの記者会見にお越しいただきまして、誠にありがとうございます。また、日頃よりホンダの活動に対し、ご理解・ご支援を賜り、厚く御礼を申し上げます。

このたび、私どもはFIA(国際自動車連盟)フォーミュラ・ワン選手権(F1)に参戦することを決定いたしました。2015年シーズンから、マクラーレンとのジョイント・プロジェクトの下、パワーユニットサプライヤーとして参戦いたします。ホンダがエンジンおよびエネルギー回生システムを開発・製造・供給する一方、マクラーレンは車体の開発・製造およびチーム運営を担当し、「マクラーレン・ホンダ」として活動してまいります。

ホンダは4輪販売を開始した翌年の1964(昭和39)年、F1に初参戦し、この世界最高峰の4輪レースという厳しい競争の場で自らの技術を磨き、人材を育ててまいりました。そうした中、前回の参戦において、満足のいく結果を得られないまま、やむをえず撤退に踏み切ったことは、私自身、たいへん悔しい思いがあり、同時にファンの皆さまのご期待に添えなかったことをとても残念に思っています。

F1の方向性とホンダの開発の方向性が合致したこと、若い技術者から「F1に挑戦したい」の声があがったことが、今回のF1復帰につながったという

当時、F1に携っていた約400人の技術者は、その後、環境技術を中心とした量産車の開発に加わり、とくにハイブリッド車や電気自動車など電動化技術の領域におきまして、短期間でホンダの競争力を大幅に向上させることに、大いに貢献してくれました。

一方でF1においても、ダウンサイジング過給エンジンやエネルギー回生システムなど、市販車の環境技術に呼応する新しいレギュレーションが導入されることとなり、これまで以上にレースから市販車技術へのフィードバック、加えて市販車からレースへのフィードバックも期待できるようになります。

このように、F1の新たな技術の方向性と、ホンダがめざしています開発の方向性が合致していく中で、将来ホンダを担う若い技術者からも、「F1に挑戦したい」という声が上がるようになってまいりました。

世界中の自動車メーカーがし烈な競争を繰り広げる中、ホンダが勝ち残っていくためには、これからも卓越した技術進化を続けていかなければなりません。そのためには、若い技術者が自らの技術を世界で試し、磨く場が必要です。これからのF1はそれを実現するのに最適な場であると考えました。

ホンダの技術力を結集し、F1で夢を実現したい

伊東氏 : そしてなによりも、ホンダは創業以来、レースに参戦し、勝利することで成長してきた企業でございます。私は、世界中のお客様がこれまで応援してきてくださったのも、私どもがレースに挑み、勝つ姿に共感してくださっているからだということを、あらためて認識しなければいけないとも感じております。

ホンダのコーポレート・スローガンは、「The Power of Dreams」でございます。このスローガンには、人々とともに夢を求め、夢を実現していくという強い意志が込められています。その意志をもって、ホンダはかつての盟友で、F1界を代表する名門チーム、マクラーレンとともに、再びF1にチャレンジいたします。世界一をめざし、ホンダの技術力を結集して、F1で1日も早く勝ち、皆さんとともに夢を実現したいと考えております。

最後に、このたびの参戦に向けて、多大なるご理解とご協力をいただきましたFIAのジャン・トッド会長、ならびにフォーミュラ・ワン・グループCEOのバーニー・エクレストン氏に、この場を借りて厚く御礼申し上げたいと思います。

私どもホンダにとりまして、今年は4輪車販売開始50周年にあたります。この大きな節目の年に、新たな活動をご報告できたことをうれしく思います。引き続きご支援をよろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。

それでは本日、この会見のためにイギリスからお越しいただきました、マクラーレン・グループ・リミテッドのCEO、マーティン・ウィットマーシュさんをご紹介いたします。ウィットマーシュさん、どうぞステージへ。

マクラーレン&ホンダの栄えある歴史を胸に、再び栄光へ邁進したい

ウィットマーシュ氏 : 皆さまこんにちは。伊東さん、ご紹介ありがとうございます。また、この記者会見に同席させていただけることを、心より感謝いたします。

本日、歴史に残るホンダ・マクラーレンF1パートナーシップの新たなショーの幕開けを発表でき、たいへん光栄に思います。

ホンダとマクラーレンのパートナーシップといえば、「成功」そのもの。1980年代から1990年代にかけ、ともにGP44勝、ワールドチャンピオン18回の栄光に輝きました。1988年には、歴代最強のF1カーである「マクラーレン ホンダ MP4/4」を生み出し、アイルトン・セナ選手とアラン・プロスト選手の下、16戦中15勝しました。

1980~1990年代、マクラーレンとホンダは数々の栄光を手にした

マクラーレンとホンダは、また新たな、非常にエキサイティングな冒険の途につきます。マクラーレンおよびF1を愛する人々を代表し、ホンダのF1参戦を心より歓迎いたします。両者にとって、過去の栄光を背負っての門出となります。

マクラーレンと同様、ホンダにはモーターレーシング・スピリットが脈々と流れています。過去の栄光を再びこの手にし、再度頂点に立ちたいと切に願う、我々と共通の鼓動です。我々は業界をリードする技術、イノベーション、そして性能へのゆるぎないコミットメントを共有しています。世界有数の研究開発力と技術力に下支えされ、サーキットでの結果を出せる永続的パートナーシップを築き上げていきます。

ホンダは世界の技術の巨匠と評されていますが、その熱意と専門性はエンジン技術の開発にあるといえます。ホンダは過給エンジンのメーカーとして、他者を寄せ付けない実績を持ち、F1でさらなる成功を追い求めるマクラーレンにとって最良のエンジニア・パートナーです。挑戦に満ちた旅路であることは、ともに重々承知しております。

F1は非常に過酷なスポーツであり、年々競争が激化しています。しかし、我々はこのパートナーシップを必ずや成功させ、最終目標である優勝を手にする所存です。強い意志と卓越した技術的知識をもってすれば、いかなる挑戦も克服できる自信があります。

両者には誇るべき実績・すばらしいパートナーシップの下、世界の最高峰に立った実績があります。あれから数十年の時が流れたにもかかわらず、ともに刻んだあのF1の瞬間はいまだに語り継がれています。ホンダとマクラーレンはこの栄えある歴史を胸に、再度栄光を手にする時に向かい、邁進していきます。本日は誠にありがとうございます。

ホンダの復帰で「F1をさらに魅力的なものにしてくれる」

記者会見でも述べられた通り、今後は「マクラーレン・ホンダ」として活動していく。ホンダがエンジンおよびエネルギー回生システムを開発・製造・供給し、マクラーレンは車体の開発・製造およびチーム運営を担当するという。

なお、ホンダのF1復帰を受け、FIA会長のジャン・トッド氏は、「非常に喜ばしいこと。エネルギー回生システムや、V6 1.6リッターダウンサイジングエンジンなど、新しいパワートレインの導入は、これからのモータースポーツのあり方を示唆する非常にチャレンジングな取組みです」。フォーミュラ・ワン・グループCEOのバーニー・エクレストン氏も、「ホンダのF1復帰を歓迎します。彼らのエンジン技術の高さとモータースポーツへの情熱が、F1をさらに魅力的なものにしてくれると期待しています」とコメントしている。