「なのは、いきまーす!」でおなじみの選手権名物プログラム、その名も「なのは」。痛PCだけど前回二次予選10位の実力派です

二次予選――決勝への門は狭くなったか

2日目の二次予選からはいよいよシード組が登場する。一次予選をくぐり抜けたプログラムの前に立ちはだかるのは、優勝候補の呼び声高い有名なプログラムだ。少年誌も真っ青のパワーインフレである。

二次予選の目的は上位8位に入ることで、このときの順位は決勝ではほとんど影響しない。そのため「本番は決勝、二次予選は前哨戦」という見方があるが、最近では強いプログラムがぽこぽこと雨後の竹の子のごとく出てくるため、トップランカーといえど安心はできなくなった。衝撃の大きかった出来事として、昨年はBonanazaが二次予選で敗退している。

開発者に話を聞いてまわると、決勝進出を目標に掲げるところが多かった。そこに謙遜している様子はまったくないのである。

群雄割拠、個性豊かなプログラム

毎年優勝を争うクラスのプログラムがぶつかるだけに、将棋のレベルは非常に高い。またコンピュータ特有の過激さも相まって、観戦していて飽きることがなかった。

たとえば下の図。手前の GPS将棋がどう攻めるかという局面だが、自玉も危険な形で駒はできれば渡したくない。ところがここで「一番渡したくない駒」である飛車を渡しながら後手玉に迫ったのである。人間にとっては直感的に選びにくい手も、読み切っているから問題ない、というコンピュータらしい決め方だった。

図2 二次予選▲GPS将棋△激指戦より。先手は金に迫られ、特にヨコに利く駒を渡すと危険な形。ところがGPS将棋は飛車をばっさり! 渡した飛車を王手で打たれても一手勝ちできると読み切っている。人間では怖くて本能的に避けてしまう順だ

今年の二次予選は特に波乱もなく、実力上位と目されるプログラムが決勝に進出した。ここからはその8つを紹介していこう。

激指(げきさし):現行制度での優勝は4回と最多。実現確率探索という手法を取り入れ、人間らしいバランスのとれた指し回しが特徴。投了のタイミングにも美学を感じさせる

激指チームの鶴岡慶雅氏(右)、横山大作氏

「びっぷる」とponanzaの開発者、山本一成氏。ponanzaはBIGLOBEのクラウドサービスを使っている

ponanza(ポナンザ):前回4位、 Bonanzaをリスペクトした名前だが実際紛らわしい。評価関数の精度を頼みに、序盤でリードを築いて押し切る展開を得意にしている

GPS将棋:前回の優勝プログラム。電王戦ではA級棋士の三浦弘行八段を破って注目を集めた。東京大学駒場キャンパスのパソコンを使った大規模クラスタによって、冒頭でも紹介したように圧倒的なスペックを得ている。堅い守りを盾に、一見無理と思えるような細い攻めをねじ込む棋風。結果的に「一方的に殴って勝つ」が得意のスタイルである

Bonanza:前頁でも紹介したコンピュータ将棋界の革命児。以前は超攻撃的な棋風で「ボナンザ攻め」は無理攻めの代名詞になった。バージョンを重ねるごとに棋風が変化し、現行のものでは腰を落としてじわじわと戦線を押し上げるスタイルをとっている

ツツカナ:前回3位、名前の由来は時計の部品から。手を読む深さを学習によって決めている点が特徴。現代将棋の流れが穴熊至上主義にあるなか、穴熊を好まないという奥ゆかしい性質を持つ

NineDayFever(ナインデイフィーバー): Bonanzaの評価関数を、評価値の矛盾を解消する方向で改良。ベースはあくまでBonanzaであるため、1年半という比較的短い期間で成果を出すことに成功した。初出場ながら決勝進出を果たし「台風の目か」と騒がれたらしいが、実は事前に別所でその強さが確認されていた期待の大型新人

「YSS」の開発者、山下宏氏

「習甦」の開発者、竹内章氏

習甦(しゅうそ):前回5位。評価関数に重点を置いており、人間を超える大局観を目標に掲げる。序中盤の安定感だけでなく終盤の鋭さにも定評がある。名前には「羽生善治三冠から白星を積み上げたい」という思いが込められている

YSS:優勝3回、1991年の第2回から参加を続けている古豪中の古豪。今回は積極的に新しい手法を取り入れて強化に成功した

なお、前回2位、第1回電王戦で米長邦雄永世棋聖を破った「ボンクラーズ」の後継である Puella α(プエラ アルファ)は残念ながら不出場だった。

そしてやって来た3日目の決勝。8つのプログラムによる戦いの結末は……。……続きを読む

CSAの瀧澤武信会長。運営で忙しい合間を縫ってインタビューに応えていた

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