「CM好感度ランキング」ということばを時々目にする機会もあるだろうが、これはCM総合研究所が毎月2回1,500人の視聴者を対象に行う調査結果をランキング化したもの。いわばその月の日本を代表するCMの上位者リストである。
CM関係者にとっては、毎月「表彰式」が行われているようなものだが、これは一体どのような影響を上位に入った会社に与えるのか? 1位と2位に明確な差はあるのか? 昨年8月、「消臭力『夢の共演篇』」で1位を獲得したエステー特命宣伝部長の"高田鳥場"こと鹿毛康司氏に聞いた。
エステー特命宣伝部長の"高田鳥場"こと鹿毛康司氏 拡大画像を見る |
「本当のこと言っちゃうと、CM好感度調査の1位、2位、3位ってあんまり差がないものなんですよ。だって、毎月4000ほどのCMが出て、その中の1位も2位も3位も相当上であることは間違いないでしょ? もうすぐオリンピック始まりますが、メダル取る選手ってとにかくすごいですよね。世界レベルになってしまうと、金か銀か銅か、ってのは関係ない。1位も2位も3位も『すごい』ってことでは共通です」
「しかし、オリンピックの金と銀では世間の評価が全然違います。圧倒的に金の方が上です。一度金メダルを取ってしまえば、その後はコメンテーターや評論家、講演、CM出演などで仕事が殺到しますし、世間からのリスペクト度合いがすごく、もはや『金メダリスト』という水戸黄門の印篭のような状態になる」
「オリンピックと比較するのも恐縮ではありますが、CM好感度ランキングの1位ってのもその側面があるんですよね……。エステーは過去に2位は取ったことあるのですが、昨年8月に初めて1位を獲得しました」
「別に私たちのCM作りの姿勢とかは変わっていないのに、世間や業界関係者からの見る目がガラリと変わるんですよ。ポジショニングというのでしょうか、『1位を取った会社』『1位を取ったクリエーター』という目で勝手に他人は見るようになるのですね」
「大勢の人がかかわるCM業界ですが、好感度ランキング1位を取れるのは、月に1社だけで、年間12個しか金メダルがない状態です。それを取れたし、別の月には2位も取れました。こうなると、世間の皆さんにとってはエステーっていう会社はCMがうまい会社なんだな、とポジティブに見てくれるようになるわけです」
エステーごときがCMの話するかね(笑)と言われた7~8年前
「別に自分自身は1位になることだけを意識してCMを作っているわけではありませんが、過去に発奮する出来事はありました。7~8年くらい前だと思うのですが、私がメディアから取材された時の発言に対し、誰かがネットに『エステーごときが広告の話をするかね(笑)、よく言えたものだわ(笑)』といったことを書いたんですよ。この書き込みが私は忘れられなかったんですよ。別に腹を立てたか、ということではなく、CM予算が少ない会社(年間約30億円、だいたい230位)だとこんな扱いしかされていないんだ――ということでエネルギーになりました」
「このバカにされる風潮ってのは、上位の常連になっておさまったものの、まだ時々『エステーごとき』みたいな言われ方はしていました。でも、昨年の1位獲得により、もはや『エステーごとき』ということを言う人はいなくなりました」
「別に1位を取ったからって私の給料は上がりませんが、消費者に対しても、業界に対しても発言権を得ることができた、というのが1位がもたらす意味だと考えています。ただし、次のCMでも上位を取れるかどうか、ということについてですが、同じ方向性でやればやるほど、好感度は消費されていき、どんどんランキングは下がっていくものです」
「一度でも1位になることは、CMづくりにおいてたいへん厳しいことです。そこは自覚しています。その一方で、これだけ発言権が上がったし、むやみやたらとあった、陰湿な陰口や中傷はなくなったのは良いことです」
「やっぱり、オンリーワンよりナンバーワンなんですよ。オンリーワンはダメですよ。日本は共産主義じゃないんですよ。日本は、一見社会主義のようではありますが、資本主義が8割くらいは占める競争する社会なんです。競争しないんだったらオンリーワンでもいいでしょう。仕事が関係なかったらオンリーワンで楽しく慣れ合いながらお酒を飲めばいいです」
「でも、仕事の場合は、ナンバーワンでなくてはいけない! やっぱりサラリーマンは競争しなくてはいけないのです。競争をネガティブに捉える人はいますが、そんなこといっても我々社会人は競争社会に組み込まれているわけですし、ナンバーワンを目指さなくてはいけないんです。そこに気付けよ、と全国の働く皆さんには伝えたいですね。
「あれ、CM好感度ランキング1位の話をしていたのに途中から『オンリーワンはダメだ!』みたいな話になってしまいました。しかしながら、これが一応はナンバーワンを取れた立場として痛感したことであります」