慣れると居心地のよい秘密基地のよう

東京にいる者からすると、京都はなんだか神秘的な場所。古くは都であったという歴史と神社仏閣の多さから、万城目学の小説『鴨川ホルモー』の鬼や、森見登美彦の『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』に登場する天狗や空を飛ぶ電車も、京都なら本当に存在するのでは?という気がしてしまう。そんなことを思いながら京都を散策中に、なんとも不思議なお店に迷い込んでしまった。どんなお店なのか、記憶が薄れる前に紹介しよう。

異世界への入口? 「ラガード研究所」

『ガリバー旅行記』には、それが何の役に立つのか分からないものを研究する「ラガード研究所」という施設が登場するのを、皆さんはご存知だろうか。その「ラガード研究所」を名前に冠するお店がある。その店は、まるで大正時代からタイムスリップしてきた書生さんのような30代の店主が切り盛りしていて、京都の今出川通り沿いにある。

厚い扉を開けておそるおそるきしむ床を進むと、ざらざらな壁に薄暗くオレンジ色のライトが映える店内が見えてきた。店内には紙と綿でつくられた標本箱、植物の種、古い電子部品などが飾られている。天文・理科系の専門古道具屋というものの、ここが店なのか、ギャラリーなのか、誰かの部屋なのかもわかりかねる雰囲気が漂う。

乙女心にも服にも刺さる?ハグルマの指輪(ブラックホール型)

すべてが1点もののアンティーク

ジブリ『耳をすませば』の「地球屋」、『紅の豚』の修理工場「ピッコロ社」、『魔女の宅急便』のとんぼ少年の作業机を混ぜた場所とでもいえばいいのであろうか。実際に猫がしゃべりだしてもおかしくないほどの異世界が広がっているのだ。

ジブリ、宮沢賢治、長野まゆみの世界観が感じられる古道具たち

作りつけの棚の上で、歩く振動で何かが揺れた。それは羽が生えた種のオブジェだった。 しかし、その正体は本物のアルソミトラの種。羽は重い種を遠くまで飛ばすためについているそうだ。もしかしてジブリの『風の谷のナウシカ』に出てくる乗り物「メーヴェ」はここからきているのかもしれない……と夢想したくなるような種である。

種の羽は本物。ビニールではありません!

また、天球儀がぶら下がる奥まった天体コーナーで目を引くのが、角が丸くなった手のひらサイズの杵(きね)。店主は「天文見立て」を行い、杵に無数に空いた虫食いの跡を、星座に見立てる。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に出てくる北十字とプリオシン海岸も、ここでは見つかるかもしれない。

手のひらサイズの杵(きね)。虫食いの跡は星座に見立てる

さらに薄暗い店の奥には、さまざまな工具のかけられたアトリエが見える。そこには、お店でつくられた小型の引き出しがある。そこには蝋引きでつくられた紙箱に刺さる、きらきらと光る赤や黄色のおもちゃの指輪が。これの正体はなんとPCやテレビの中に入っている電気の抵抗体。長野まゆみの小説『テレヴィジョン・シティ』や『螺子式少年(レプリカキット)』に出てくるアンドロイドや自動人形にも、こんなきれいな部品が使われているのだろうか、とつい想像が広がる。

指輪のような電気の抵抗体

子ども時代の宝物を思い出す店内

「ラガード研究所」の店内は狭く、作品数も多くはないが、店にある古道具すべてにストーリーがあり、その物語を店主に聞いたり、自分で夢想することで、ついつい長居をしてしまう。そして同時に蛇の抜け殻や道路に落ちていたボルトを、宝物として大切にしていた子ども時代を思い出す。まさに童心に帰ることができる場所でもある。

フランスの木型がスタンプされたオリジナルの箱

そしてこの店唯一のオリジナル製品である、蝋引きやコーヒーで色づけされ、しっくりと手になじむ紙性の箱は、本当に大切なものを入れるのによく似合う。それはまるでこの店のように、一般的な評価ではなく、あなたが大事にしているものを大事にしていいんですよ、という店主からのメッセージにも感じられた。

電子部品を使ったオブジェ

金・土・日の12時から19時しか開店していない不思議なお店「ラガード研究所」。東京にいると、もしかしたらあれは夢だったのではないだろうか、と不安にもなる。ぜひどなたか訪れて、この研究所が実在している確かめていただけないだろうか。なお7月からは、ラガード研究所に、星のソムリエの資格をもつ「星の先生」が加わるそう。初回は、7月28日(土)の20時から、京都の鴨川デルタで、課外授業「星座教室」を行うとのことなので、こちらにも行ってみてはいかがだろうか。

「Lagado 研究所 課外授業 星空教室」

日付 2012年7月28日(土)20時~22時
場所 京都市左京区出町柳駅前 鴨川デルタ
定員 30人
費用 500円(中学生以下は無料)
申込み方法 info@lagado.jp宛に、名前・人数を記入の上メール ※雨天中止

文●山本家