息子であるなどとかたって高齢者の自宅に電話をかけ、「急に資金が必要になった」などとして、高齢者にお金を振り込ませる「オレオレ詐欺」。同詐欺に代表される『振り込め詐欺』は、被害額や被害件数のピークは過ぎたとはいえ、社会の油断につけこむような形でここにきて増加する傾向にあり、2011年の被害額は127億円にも上った。どうすれば被害の増加を防ぐことができるのか。警察庁や金融機関が行っている犯罪撲滅への取組みを聞いた。

「ピークはすぎた」との油断を突き、再び増加する『降り込め詐欺』

警察庁によると、「オレオレ詐欺」や「架空請求詐欺」、「融資保証金詐欺」などの『振り込め詐欺』の実質的な被害総額は、ピークだった2004年は283億7,900万円だったのが、2009年には一旦95億7,900万円までに減少。だが、2010年には100億8,800万円、2011年には127億1,900万円となり、再び増加する傾向にある。しかも、その手口は巧妙化し、息子などをかたって高齢者にお金を振り込ませる「オレオレ詐欺」のほか、金融商品の取引などを電話でもちかけてお金を振り込ませるなど、新たな手口も出てきている。さらに、警察の取り締まりによって幼稚な手口で犯罪を行う犯罪者の多くが検挙される一方、振り込め詐欺を専門として巧妙な手口で犯罪を行うなど「プロ集団化」する傾向もあるという。

今回は、『振り込め詐欺』撲滅の最前線で対策を行っている、警察庁 犯罪抑止対策室 振込詐欺対策室 警視の井手孝志氏に、犯罪の最近の動向と、その阻止のための取組みについてインタビューした。

「"おいしい話"を電話で勧誘してくるような手口には、十分注意してほしい」と注意を呼びかける、警察庁 犯罪抑止対策室 振込詐欺対策室 警視の井手孝志氏

――まず、『振り込め詐欺』についての、これまでの動向について、教えてください。

2003年ぐらいから、特に女性の高齢者を狙って、息子を思いやる気持ちを利用して、高額のお金を騙し取る「オレオレ詐欺」による被害が社会問題化し、警察と金融機関が官民一体となって、2004年ぐらいからこれを阻止・検挙するための対策を行ってきました。その後、国民運動的な対策をとってきた結果、一旦は収束するような状況になり、犯罪の発生自体も少なくなって被害額のほうも一番ひどい時期に比べると、かなり少なくなって対策の効果があがったんですね。

しかし、一定の効果があがったために、ちょっと油断してしまった感がありまして、社会的にも、「私は騙されませんよ」「自分の息子の声は聞き分けができますよ」といった、自分に対する過信のようなものがでてきたんです。

犯罪者たちはそこを突くような形で、2009年には一旦95億円まで減少した被害額が、2011年には127億円という高額の被害となってしまいました。皆さんには、現在もそういう状況であるということを、知っていただきたいと思っています。

「人妻を妊娠させた」などとかたり、現金を振り込ませる

――『振り込め詐欺』は、どのような手口で行われるのでしょうか?

「オレオレ詐欺」は、電話で息子であることなどをかたり、中には警察官役や弁護士役も登場して、劇のような形で行われることもあります。この"息子がたり"の場合は、風邪をひいたなどと言って若干咳き込んだりしながら声が違うことを悟られないようにしながら、携帯電話が壊れたから新しい携帯電話番号に変わったと話し、一旦電話はそこで終わります。まず、本当の息子さんのものとは異なる携帯電話番号を信じさせるわけです。これを我々では、「アポ電」と呼んでいます。

その上で、後日その番号から電話して、「会社のお金を使いこんでしまった」とか、「重要な書類を電車の中に置き忘れて会社に損害を与えてしまった」とか、最近では、「人妻を妊娠させてしまって、示談をしなければならなくなった」とか言うわけです。

高齢の方からすれば、久しぶりに息子から電話があったことで喜んだ後に、息子が大変困っているという話を聞いて、助けてやらなければならないという気持ちになります。そこで犯人から、「今日中に100万円振り込まなければいけない」などといわれると、犯人の指示通りに金融機関やATMなどに行き、言われるままに操作することで、多額の現金が犯人の口座に振り込まれてしまうわけです。

犯人は高校の卒業アルバムなどを通じて、息子の高校名や電話番号などを知った上で、親の年齢などを想定し、電話をかけるわけです。こうした犯行に使う名簿や携帯電話、銀行口座などの"犯罪道具"を調達するグループが、インターネットサイトなどを通じて、犯罪者に売るケースも多く見られます。例えば、会社名義だと数十台の規模で携帯電話を調達することもできますので、我々としては、こうしたグループも検挙しています。

"未公開株"など、金融取引を装った手口も

――犯行を行う前段階の準備を専門的に行うグループもいて、まさに「プロ集団化」しているわけですね。

そのほかにも、一切債務がないにもかかわらず、インターネットの有料サイトを利用したからなどと言って現金を振り込ませる「架空請求詐欺」、お宅に100万円貸せることになったから、融資のための保証金を振り込んでくださいなどという「融資保証金詐欺」、さらには、社会保険庁を名乗り、医療費の還付がありますからなどと言ってATMまで行かせて指示通り操作させて現金を振り込ませる「還付金詐欺」などがあります。中には、直接犯人が自宅に出向いて、直接現金を受け取りに来ましたとか、キャッシュカードを預かりに来ましたとか、振り込ませるのではなく、現金やキャッシュカードを直接だまし取るケースも出ています。

また、こうした詐欺に加えて、最近急増しているのが、金融商品の取引を装った詐欺です。未公開株を取得する権利者に選ばれたなどと電話で言った後に、それらしく見せた資料を郵送し、"未公開株"の代金を振り込ませる場合や、今後外国通貨のレートが上がりますからなどと言って勧誘し、現金を振り込ませるケースもあります。

さらに悪質なのは、金融商品への投資に過去失敗したことがある人に対して、「損をした分を回収できる方法がある」などと電話し、さらに食い物にするケースです。まともな金融機関が電話で金融商品を勧誘することはありませんから、こうした"おいしい話"を電話で勧誘してくるような手口には、十分注意してほしいです。

振り込め詐欺認知推移(被害総額)

"最後の砦"の金融機関やコンビニで、2割もの「振り込め詐欺」を阻止

――新たな手口も次々に出てきているわけですね。警察庁や警視庁、各道府県警では、どのような対策を行ったり、呼びかけたりしていますか?

まず、これまで述べてきたような、いろんな手口を知ってもらって対策を講じてもらえるよう、注意喚起を行っています。例えば、「留守番電話作戦」というものがあるのですが、高齢者の方が在宅の時でも、固定電話の設定を「留守電設定」にしておくというものなんですね。昨年から呼びかけを行っています。

というのも、犯人と被害者をつないでいるのは電話ですよね。そこで、犯人との接触そのものを絶ってしまおう、遠ざけてしまおうというのが、この対策の趣旨です。犯人グループがかけてくるのは、高齢者の自宅の固定電話が大半ですから、高齢者がいきなり電話をとることによって、被害にあってしまうので、一旦留守電設定にしておいて電話してきた相手を吟味し、本当に必要な用件で電話をかけてきた人にだけ、電話をしなおすといった方法をとっているのです。

さらに、金融機関やコンビニエンスストアなどと警察が連携をして、だまされた人が窓口やATMに来る可能性があるから、そこで不審な点に気づいたら声をかけてくださいよ、と金融機関の職員さんやコンビニエンスストアの店員さんにお願いしているわけです。全国銀行協会さんでは、2008年から振り込め詐欺防止のキャンペーンをずっとやっていただいて、被害者が被害に遭わないですむ"最後の砦(とりで)"として、大変協力をしていただいてます。

携帯電話を持ちながらATMを操作する人がいたら声をかけたり、高額の引出しをする人がいたら、それはどういった用件で必要なお金ですか、もしかしたら息子さんから電話か何かで頼まれたんじゃないですか、など、チェックリストに沿って、リストの項目に該当するようなお客さんに声をかけていただいているわけです。

その結果、2011年では、振り込め詐欺の22%が、金融機関やコンビニエンスストア、郵便局などで阻止できているという効果が出てきています。もしこれがうまくいってなければ、そのままこれらの方々が被害に遭われたわけですから、大変な成果だといえると思います。

また、昨年からは、高齢者の方々の周辺にいる家族に関心を持ってもらうことが一番いいだろうということで、『家族で守る財産』『家族の絆で振り込め詐欺に対抗していきましょう』というキャッチフレーズで、家族の方々への注意喚起を行っています。やっぱり、お子さんやお孫さんから、注意してねということを言われると、「私は大丈夫」と思っている高齢者の方々の心にも言葉が響くのではないかと思っています。具体的には、駅などにそうしたことを呼びかけるポスターなどを貼ってたりして、家族の方々に呼びかけています。

そのほか、老人会やヘルパーさん、民生委員さん、病院の方々などにも、注意喚起を行っています。

また、本当の息子さんのものとは異なる携帯電話番号を信じさせる「アポ電」に関しては、電話番号が変わったということを冷静になって怪しんでみて、もともとの息子さんの携帯電話に電話をかけてみましょうということも呼びかけています。

警察庁次長がトップになって「振込詐欺対策室」を設置

――警察からも本当にさまざまな人々に協力をよびかけ、対策をとっているわけですね。警察庁さんとしては、どのような組織体制で、振り込め詐欺に取り組んできたのでしょうか?

振り込め詐欺の被害が大変なことになっているということを受け、警察庁の犯罪抑止対策室の中に、警察庁のナンバー2である警察庁次長がトップになって、「振込詐欺対策室」を設置しました。この専従の対策室や捜査2課などが主体となって、対策を行ってきたのです。

約8年間対策を行ってきた中で、ある程度幼稚な手口の犯罪者は検挙できたと思っていますが、いまだに犯罪を行っているような連中は相当な用心をしながら犯行を行っており、"プロ集団化"してきています。そういう点が、手口が相当に巧妙化している背景にあるのだと思います。

過信を捨て、わが身に置き換えて考えることが大切

――最後に、振り込め詐欺に遭わない為に、最も大切なことを教えてください。

被害に遭われるのはやはり本人ですから、悲惨な被害のケースなどを人ごととおもわず、「私は大丈夫」という過信を捨てて、わが身に置き換えて考えていくのが、一番だと思います。いつわが身にふりかかるかわからない、という意識を持っていただけることが大切だと思っています。

――本日はありがとうございました。

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