金融広報中央委員会が調査した日本人の金融資産の状況によると、2人以上の世帯の平均貯蓄額は1,169万円となっている(2010年)。ただし、「本当にそんなに皆が貯蓄があるの? どうも実感がわかない」という人も多いのではないだろうか。

実際、平均の数値は必ずしも実態を反映しない。極端に金融資産を持つ人の数字が平均値を一気に押し上げるからだ。そこで分布のちょうど真ん中の「中央値」を見ると、500万円という数字になる。

いずれにしても日本人はまだまだ貯蓄があると思われるが、一方で、"貯蓄なし世帯"も増えている。同調査によれば金融資産をまったく持たない世帯が全体の22.3%。約4分の1が預貯金ゼロという状況だ。二極分化は金融資産状況にも顕著に現れている。

「貯金ができる人には、ある共通の習慣や思考パターンがある」と話すのは、貯蓄支援コンサルタントの坂井武さん。貯まる人はお金に対する意識が明らかに違うという。

習慣1 : 「まとまったお金」は十分貯金とみなす

例えば、「まとまった貯蓄」と言われたとき、最低いくらの額を想像するだろう。おそらく100万円くらいを想像する人が多いのではないだろうか?

「ところが貯まる人の感覚は10万円でも、5万円でも、まとまったお金は十分貯金とみなす傾向がある。お金がたまらない人ほど貯蓄額のイメージが高いのです」。

貯まらない人は、貯蓄の金額イメージが高いだけに貯蓄をおっくうに感じてしまう。また5万円、10万円のお金に対しては貯める意識もないまま、ついつい使ってしまう傾向があるという。一方、貯蓄ができる人ほど、額が小さくてもまとまったお金という意識があるから、自ずと貯まっていく。

坂井さんの印象に残っているのは、ある資産運用の相談を受けたある高齢の女性。坂井さんがその自宅を訪れると、彼女が出したのは、お盆に山のように積まれた大量の預金通帳だったという。

見ればすでに成人している息子が高校生だったころに貯めた進学費や、お盆の帰省のためのヘソクリなど、100万円や50万円、20万円といった金額で目的別に通帳が分けられていたという。いずれも昔の話で、すでに当初の貯蓄の理由はなくなったが、そのまま使わずに置いてあるという。

「どの通帳にもびっしりと細かい文字で書き込みがしてありました。入金のお金がどういう経緯のお金だったか、出金の場合はどういう理由で下ろしたかなど。しかも、1,000円や100円単位の入金もありました」。

お金に対して丁寧に向き合っている──貯まる人の共通点はその一言に尽きると坂井さん。10万円、20万円という小額でもそれぞれ目的別に通帳に分けられ大切に保存されている。たくさん通帳があるためにしまいに分からなくなってしまう。その結果として使わずにお金がどんどん貯まっていくのも、貯まる人の一つの特徴だと坂井さんは指摘する。

貯まる人に共通する習慣や考え方はほかにもある。以下にそのいくつかを紹介しよう。

習慣2 : 小銭でもお金として大切にする

貯まる人ほど小銭だからといってぞんざいな扱いはしない。あるお金持ちは、ふちがギザギザになった10円玉を、金運の象徴として大切に年代ごとに保管している。本当に運がつくつかないというよりも、小銭にも毎日意識を向けるという態度が、大きなお金にもつながってくる。

習慣3 : お金の使い方にメリハリがある

お金の貯まる人は無駄な出費は一切しないと同時に、必要なお金は気前良く払う。いわゆる「生き金」と「死に金」の区別が明瞭で、死に金を絶対に使わない。また、どんなに資産があっても、割引券やクーポンなど利用できるものは最大限に利用する。

習慣4 : ATMで何度もお金を下ろさない

ATMでお金をちょこちょこ下ろす人は、計画性のない証拠。お金の貯まる人は月に何回、ATMでいくら下ろすか決まっている人がほとんど。それに合わせてお金を使うので、無駄遣いせずに済む。

習慣5 : 財布の使い方がキレイ

お金の貯まる人はお金を大切に扱う。当然その入れ物である財布にもこだわる。お金の貯まらない人の財布ほど、レシートやポイントカードなどでパンパン。型崩れやほつれが合っても平気。一方、貯まる人の財布はすっきりとして美しい財布が多い。毎晩レシートを抜きお金の向きを揃え、きれいに拭いて手入れしている人も多い。

習慣6 : ライフプランにあわせた貯蓄をしている

ただ漠然と貯蓄をするのではなく、自分や家族の将来とライフプランを立て、それに必要なお金を計算し貯蓄の計画を立てている。目的意識がしっかりとしているので、途中困難があっても簡単に貯蓄を切り崩すことが無い。

習慣7 : 不意の出費に備えた資金計画を立てている

貯蓄をする上で意外な障害になるのが、結婚式や葬式などの祝儀や香典などの突然の出費。これをまったく想定せずに家計を組むと、いざというときにせっかく貯まっていた貯蓄を切り崩すハメになりかねない。貯蓄に成功している多くの人は、このような不意の出費にも対応できるような家計を組んでいる。冠婚葬祭のほか、車検や税金、マンションの修繕費など、まとまって忘れた頃にやってくる支払いを紙に書き出してみる。

「お金に対して丁寧に向き合う」ことが大前提

いずれにしてもお金に対して丁寧であることが大前提。入ってくるお金、出て行くお金をつねに意識すること。その上で、貯蓄がまだほとんどできていないという人は半年で10万円の少額貯蓄に挑戦してみる。

「1カ月1万7,000円。通帳を1枚そのために作り、10万円たまったら今度はまた別の通帳で同じように半年で10万円を貯めていくのです」(小坂さん)。

新たな通帳が加わるたびに貯蓄が増えていく。小さな成功体験を重ねるうちに自然に貯まる体質に変わっていくに違いない。

執筆者プロフィール : 本間 大樹(ほんま たいき)

月刊誌の編集を経てフリーの編集、ライター。経済、マネー、法律などの分野を中心に雑誌や単行本を執筆している。