twitter上の自分は"作られていない"本来の自分

――最後に乙武さんのインターネットでの活動について伺いたいと思います。twitterを拝見していると、ネットで発言することですごく生き生きされているように見えます

「twitterにしろブログにしろ、僕にとってはありがたいメディアなんです。というのも、最初に本を出してから色々な媒体に載せていただく機会がありましたが、僕という人間の1から10までを取り上げてくださるわけではないんですね。そのメディアの望んでいる僕の綺麗な部分や上澄みだけが取り上げられることが多くて、素の部分やふざけた部分はカットされてしまうわけです。でもtwitterやブログなら編集責任が自分にあるので、僕を丸ごと出せる。よく「乙武さん、twitter始めてからキャラが変わりましたね」って言われるんですけど、それは今まで出しどころのなかった自分をようやく出せるようになっただけなんです。だからキャラが変わったわけではなく、たぶん皆さんの印象が変わっただけだと思います」

――むしろtwitterでの乙武さんが本当の乙武さんだ、と

「これまで、自分はメディアによって伝えられているような人間じゃないという思いが少なからずありました。そういう意味ではストレスが少なくなったというか、twitterで素の自分がわりと出せているのかなという気がしますね」

――著名人に限った話ではないのですが、twitterでのフォロワーとの距離感や、ダイレクトに心ない言葉を投げつけられることに悩む方も多いようです。乙武さんはそういった攻撃的な言葉への対応もうまいですよね

「人が攻撃的になったり、心ない言葉を誰かにぶつけたりするのは、本当はその相手に悪意があるというよりも、自分自身の中に何かを抱えているというケースがほとんどなんですよ。よく言われるんですが、すごく真面目な質問をされる方から「なんで私たちのような真面目な質問はスルーして、攻撃してくる人に返信するんですか」と。でもこれは教員をやっていたからというのもあるのかもしれませんが、そういう絡み方しかできない人ほど先にケアしていきたいなと思っちゃうんですよね。実際、ほとんどの方は僕が返事をすると手のひらを返すように「実は応援していました」とか「ごめんなさい」と言ってくれる。そういう攻撃的な表現しかできなかったのが、僕がいざそっちを振り向いてニコッと笑いかけることで、「自分のことを見てくれた」となるのかもしれません」

攻撃されても面白く返したい…ネットとの付き合い方

――なるほど。とはいえわかっていてもそんな風に考えるのは普通の人には難しいかもしれませんね

「僕は13年前にメディアに出た当時、2chですごいことになってましたから、もう慣れっこですし、twitterでの一対一のやり取りでグサッとくることはないですね。「何か面白い返しをしてやろう」ってなりますね(笑)」

――普段は他にどんなサイトをご覧になっているのでしょう

「今はやっぱりtwitterですね。mixiもやっていたんですがtwitterを始めてからはやめちゃいました。twitterは自分が発信するだけでなく受信メディアとしても使っています。地震速報とかはどのサイトより速いですしね」

――デマの問題もありますよね。twitterではデマがあっという間に拡散してしまいます。そのあたりで心がけていることはありますか?

「うーん……デマを見分けるのって、僕は感覚なんですよ。震災のとき、「PCラックに挟まって動けない」っていう内容のツイートが回ってきたんですが、これは嘘だなと思ってリツイートはしなかった。だってまずそんな状況にある人はあんな正確な文章は書かないし、全部を漢字変換はしないだろうと思ったんですよね。そういうところからこれはおかしいな、と」

――結局は失敗もしながら、自分の感覚を磨いていくしかないのかもしれませんね。最後に、今回出版された2冊についてメッセージをお願いします

「子どもたちに伝えたいことや、僕がどんな生き方をしているのかということが、どちらの本にもつまっています。読書感想文が苦手だというお子さんがたくさんいると思いますが、『オトタケ先生の3つの授業』はすごく感想文を書きやすいと思うのでオススメですよ(笑)。『希望 僕が被災地で考えたこと』は、これから被災地にボランティアで行かれる方や、もう一度震災を振り返ろうというときに最適な一冊だと思います」

おとたけ・ひろただ

1976年、東京都生まれ。早稲田大学在学中に出版した『五体不満足』(講談 社)が多くの人々の共感を呼ぶ。卒業後はスポーツライターとして活躍。その 後、05年4月より、東京都新宿区教育委員会非常勤職員「子どもの生き方パート ナー」。07年4月~10年3月、杉並区立杉並第四小学校教諭として教壇にも立っ た。おもな著書に『だいじょうぶ3組』、『オトタケ先生の3つの授業』(共に 講談社)など。Twitterアカウント : @h_ototake

撮影 : 石井健