作家、スポーツライターとして幅広い分野で活躍し、最近はtwitterでの率直な発言が何かと話題になることの多い乙武洋匡氏。そんな乙武氏が、講談社から『オトタケ先生の3つの授業』『希望 僕が被災地で考えたこと』 を同時に出版した。

前者は乙武氏が2010年3月までの3年間、東京の小学校で教師としてクラスの子どもたちに行った授業をもとした小学生向けの読み物であり、後者は東北地方太平洋沖地震後に被災地を巡った自身の行動の記録である。

一見するとまったく内容の異なる2冊をなぜこのタイミングで出版したのか。それぞれの書籍には乙武氏のどんな思いが込められているのか。ご本人にじっくりと話を伺うことができた。

震災で初めて「障害者は弱者なのか」という無力感に襲われた

――まずは『希望 僕が被災地で考えたこと』のお話から伺います。震災当日の体験が生々しく記されていて、あの日のことを思い出しました

「3月11日の震災で僕がいたビルのエレベーターが止まってしまい、100キロある電動車椅子を友人に抱えてもらって階段で外に出ました。普段は自分の障害を意識せずに生活してきたのですが、もしまた東北並みの揺れや津波がきたとき、僕は2人の息子を抱えて逃げることもできません。そんなことを考えたらやっぱり障害者は弱者なのかなと、珍しく弱気になったりしました」

――そこから被災地に足を運ぼうと決意するまでにどんな心の動きがあったのでしょう

「友人たちがボランティアに行くのを見て、すばらしいと思う反面、もどかしくもあったんです。自分だって行きたいという気持ちはある。だけど、自分が行っても何の役にも立てないだろうという歯がゆさから、ずっと無力感を覚えていたんです。ただ物理的なボランティアはできなくても、被災地の方が元気な気持ちを取り戻していくお手伝いなら自分にも出来るんじゃないかと」

―実際に被災地を巡った中で、もっとも印象に残ったのは?

「最終章で書いた、黒澤さんとの出会いですね。絶望的な状況のなか、『だからこそ元気のある人が、元気を出してやっていくしかない』という言葉が印象的でした。そして僕自身の立ち位置も、同時に客観視することができたように思うんです」