祖父の死をきっかけに、祖父の隠し子である6歳の女の子・りん(芦田愛菜)を預かることになった会社員・ダイキチ(松山ケンイチ)。二人の心温まる交流を描いた映画『うさぎドロップ』が8月20日から公開される。『ポストマン・ブルース』(1997年)や『疾走』(2006年)といった男くさい独特の作風で知られるが、この作品で新境地を切り開いたともいえるSABU監督に話を聞いた。

SABU
1964年11月18日生まれ。和歌山県出身。1996年『弾丸ライナー』で映画監督デビュー。以降、『ポストマンブルース』(1997年)、『アンラッキー・モンキー』(1998年)と話題作を監督し、2000年の『MONDAY』では第50回ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞した。ほか代表作に『疾走』(2006年)、『蟹工船』(2009年)などがある 拡大画像を見る

――今回の映画化にあたって、監督の中ではどうやって準備を進めていったのでしょうか。

SABU「最初に原作を読んだ時は絵のタッチもシンプルですし、淡々とした日常を描いていたので、これを映画としてまとめるのはちょっと難しいなと正直、思いました(笑)。ただ、僕も3歳と8歳の息子がいるのですが、子供がいるとどんどん家の中がカラフルになっていくんですよね。それと同じように、主人公であるダイキチの単調だった日常にりんが加わることで、キレイなモノがだんだん増えていく、という作品全体のイメージがつかめてからは早かったです。これまでの僕の映画ってどちらかといえば色を抜いたり、使っても赤サビみたいな色だったりしたので(笑)、今回の作品では"色"を加えていくという新しい面白さがありました」

――主演の松山ケンイチさんをはじめ、キャストについてお聞かせ下さい。

SABU「松山くんは独特の雰囲気を持ってるし、コメディのセンスもある。役者として以前から興味があったので今回、お仕事ができて本当に良かったです。演技に関してはダイキチとりんの"素"の表情が大事だと思ったので、ほとんど演出はしませんでした」

――話によると、愛菜ちゃんには台本が用意されていなかったとのことですが。

SABU「彼女は『Mother』というドラマを観てオファーしたのですが、子供の芝居によくありがちな『セリフを言わされてる感』やこなれた感じだけは絶対に避けたかったんですよ。そこで、なるべく子役子役しないよう、最初にシーンを説明して全体的な流れを理解してもらい、その上で最終的にセリフを渡すという手順を取りました。ちなみに、買い物のシーンやゲームセンターで遊ぶシーンなどはアドリブです」……続きを読む。