アイデアをいつも暖めておく
――前回おうかがいした裏紙ノートに書いたアイデアは、その後どうしていますか
現在進行しているプロジェクトにかかわることであれば、すぐに担当者へ渡してフィードバックをもらいます。一方、自分でとっておきたいものはスキャナーにかけてデジタルデータとして保存したり、アイデア帳に転記したりしています。
――アイデア帳とはどんなものか教えてください
ごく普通のノートなのですが、中・長期的な視点にもとづくアイデアやビジネスモデルを書き写し、いつも持ち歩くようにしています。すぐにビジネスとして稼動させるわけでなくても、自分の中でいくつかのアイデアを暖めておくのです。
――津久井さんは普段からビジネスモデルを考える習慣があるのですか?
ビジネスはとてもクリエイティブなものだと思います。かつて独立を目指して勉強していたときに「ビジネスとは儲かるしくみを考えること」だと知り、以来自分が何かに興味を覚えたら、それをもとにビジネスモデルを考えるようになりました。
例えば当社が専属デザイナーを置かず、フリーデザイナーと契約するシステムをとっていることはもちろん、そもそも私がロゴマーク作成サービス事業を選んだ理由は、人件費や在庫のコストを抑えたビジネスモデルがつくれるからです。そして自分が前線に立つのではなく、司令塔になること。これが創業当初から決めていた大原則でした。
――ノートを拝見すると、実にさまざまなビジネスモデルが書かれていますね
デザイナー専用のSNS(ソーシャルネットワークサービス)や、起業家と投資家のマッチングサービスなどを思いついたこともありました。時には会社の組織図を書くこともありますし、現在の状況を俯瞰するために第1回目で紹介したマインドマップを書くこともあります。
――津久井さんがビジネスモデルを考える際に、重視していることはありますか?
不況・好況に左右されないしくみであることが大事だと思います。例えば「薄利多売」のビジネスモデルは不況時には有効かもしれませんが、景気が回復したときも通用するとは限りません。経営者は目先の利益に捉われることなく、物事の本質を見抜く力を持たなければいけないと思います。
――この四つのグラフは何を表しているのですか?
これはマーケティング理論を表したものです。
新規顧客を獲得するための広告戦略を「A」、商品そのものを「B」とおき、それぞれの相関関係を考えてみました。
簡単に説明すると、広告戦略「A」が巧みで、商品の質「B」も高ければ、右肩上がりのロングセラーになります(ノート左上の図)。反対に「B」がよくても「A」が伴わない場合は、商品が認知されるまでに時間がかかり、大幅に遅れをとってしまいます(ノート右上の図)。そして左下のグラフは「A」がよくて「B」が悪い場合、右下は「A」「B」ともに不十分な場合です。
「商品はいいのになぜ売れないのか?」と悩んでいる人は多いと思いますが、その原因は「A」がおろそかになっていることがほとんどです。そしてデザインは「A」に含まれるので、当社が提案するロゴマークは広告戦略の一端を担っていると説明できます。
自分の夢を実現させるコツ
――津久井さんのアイデア帳は、ビジネスの方針や理念の再確認もできるのですね
実際に自分の判断・行動基準も書いてありますし、私のアイデア帳は「クレド※」に近いかもしれません。もちろんアイデアがビジネスの成果に直結すればなによりですが、長期的な展望や「これは大事にしたい」と感じたことも忘れずにいたいと思います。
※企業や個人の理念を簡潔に記したもの。趣意書。
――「自分が大切にしたいこと」や「方向性」書き留めたノートを持ち歩く。とてもいい習慣だと思います
もしいつか実現させたいと思っていることがあるなら、それをノートに書き留めておき、ことあるごとに人に話してみたらどうでしょうか。「実はこんなことに興味があって……」と自分から打ち明ければ、「知り合いに詳しい人がいるから、今度紹介してあげるよ」「面白そうだね、一緒にやろうよ」といった支援が得られる可能性が高まります。私もいつか本を出版したいという希望があるので、アイデア帳に企画を書いて、肌身離さず持ち歩いています。
このほかにも転職を考えたり、自分の報酬を上げたいと思ったりしたら、そのために必要なこと……例えば「資格を取る」「特定の本を読む」といったタスクを書き出し、できることから取り組んでいけば、実現までのスピードが格段に速まると思います。
―裏紙ノートとアイデア帳を併用し、ツーステップでアイデアを精査することも大事ですね
まずは裏紙ノートで縦横無尽にアイデアを書き出し、そこから厳選したものをアイデア帳に書く方法がいいと思います。面倒だと感じるかもしれませんが、この手順は本当に大切なのです。
ロゴマークをつくるときも、デザイナーはたくさんのラフスケッチを描きます。実はラフスケッチが描けるかどうかでデザイナーのレベルが判断できることをご存知でしょうか? ラフスケッチを描けるだけの技術はもちろん、自分が請け負った仕事に対する誠実さが出るからです。
デザイナーの中には最初からパソコンを使う人もいますが、ラフスケッチを経たデザインとそうでないデザインとでは、完成度が違います。
いいデザインは何度も書き直したり、そぎ落としたりした結果に生まれるもの。それは自分の人生を方向付けるアイデアや指針を考える場合も同じだと思います。
(撮影 : 中村浩二)
次回は「クリエイターと事務処理能力」についてうかがいます。
INTERVIEWER PROFILE : 早川洋平 / KIQTAS(キクタス)
2008年に始めた著者インタビューポッドキャスト「人生を変える 一冊」をきっかけに起業。
現在は、企業や教育機関、公共機関などにポッドキャストを中核としたサービスを提供している。インタビュアーとしても精力的に活動、渡邉美樹さん、堀江貴文さん、石田衣良さん、寺島実郎さんらこれまでにインタビューした人物は1,000人を超える。
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