グレイ氏の「本職」について
──グレイさんは、子供の頃からこういう実験みたいなことが好きだったんでしょうか
グレイ 好きだったよ。学校で科学を教えてくれたのが良い先生で、学校外でも習っていたんだ。
──それで、そのまま科学の勉強を続けて……
グレイ UCB(カリフォルニア大学バークレー校)の博士課程で理論化学をやっていた。それを中退して、いまの本業である「ウルフラム・リサーチ」社(世界的に有名な数式処理ソフト「Mathematica」の開発元)を設立したんだ。
──科学者になろうとは思わなかったんですか?
グレイ 本物の科学者になるより、アマチュア科学者のほうが面白いことができるんじゃないかと思った。実際そのとおりだったよ。
──本業はソフトウェア技術者、趣味で科学者というわけですね
グレイ そのくせ、実はソフト開発に関してはなんの資格も持ってないんだ。化学のほうは学士号を取ったけどね。
──本業のほうは資格を持ってなくて、趣味のほうは資格持ちなんですね(笑)
「趣味」に生きた「本業」
──本業と趣味という話が出ましたが、グレイさんは『元素図鑑』(原題:「The Elements」)というiPad/iPhoneアプリを出されています。素晴らしい3Dグラフィックが多用されている本ですが、こうした高度なアプリを作成する際には、「本業」であるソフトウェアの知識は役立ちましたか?
グレイ もちろん! たとえばiPad/iPhoneアプリ版の「元素図鑑」の中には、子供が元素の名前を歌っている動画がある。英語版以外では、ここに各国の言葉で字幕を付けなければならない。私はそれに「Mathematica」(前出)を使った。よし、その動画を見せる口実ができたぞ! (傍らのオライリー・ジャパン担当に)止めてもムダだぞ。
──少女が元素周期表の名前を次々に歌っている動画。日本語字幕で、タイミングよく元素名(歌詞)が表示されていく。グレイ氏は同時にMathematicaのソースを見せてくれた。あらかじめ用意してある字幕を、タイミングを合わせて動画に入れ込んでいく部分のようだ。
高橋(翻訳者) 昨日私もこのレコーディングに立ち会ったのですが、それがもうこの状態の動画になっているんですね。
グレイ 今朝の2時までかかったが、Mathematicaが自動的にやってくれたので、私は寝ているだけだったよ。このアプリは5ヶ国語のバージョンがあり、それぞれデモ版と製品版の2種類があるので計10種類もあることになるが、それを効率よく作ることができたのもMathematicaを使ったからだ。……次ページへ