広がる絵師の活躍の場──「ニコニコ静画」が始まりはじめた

ニコニコ動画の姉妹サービスである「ニコニコ静画」は、お題に沿った画像や自作のイラストを自由に投稿できる、「静止画」で楽しむウェブサービスだ。

このニコニコ静画では、2010年8月27日から9月28日にかけて「ニコニコで漫画を描いてみた」という試みが行われ、ニコニコ動画で人気の"絵師"たちによる漫画作品が多数公開された。

その作者の一人である春原ロビンソン氏。15万再生を超える人気作品となった『戦勇。』(いまのところ6話まで)は氏によるものだ。いわゆるコマ割漫画とは異なるフィールド、スライドショー的に見せていく漫画表現を用いて、"魔王と戦う勇者たち"という一応の設定をもとに冒険の様子を独特の作風で描いている。本インタビューでは、作者の春原ロビンソン氏に制作について話を伺うとともに、ニコニコ漫画を手がけたドワンゴ担当者に、今回の企画の狙いや今後の展開、裏話などを伺った。

……とその前に、『戦勇。』をご存じないという方がいたら、まずは以下の作品をぜひご覧いただきたい。


*  *  *

──先日、ニコニコ漫画の『戦勇。』が一段落つきましたね。おつかれさまでした

春原ロビンソン(以下、春原) 疲れました!

──疲れたんですね(笑)。それはやはり連載という形だったからですか?

春原 毎週必ず(原稿を)出さないといけなかったのと、それを3日で1本くらいのペースで描いていたので。『戦勇。』は普通の漫画にすると、1回あたり8ページくらいなんです。カラーで毎週8ページ描くというのがしんどかったですね。

──それはハイペースですね。制作の流れはどんな感じだったんでしょう

『戦勇。』作者の春原ロビンソン氏。現在24歳

春原 まず一日でネタを考えて、その日の夜にラフを描いて担当者に送るんです。そうすると次の日の夕方か夜に返事がきて、たいていどうにかなっている(修正が入る)ので、それから色を塗るという工程ですね。連載最後のほうは忙しくなって、塗るのは友人に助けてもらっていました。5話と6話は線を描くのと並行してデータを送って塗ってもらう感じでした。

──ニコニコ動画にも投稿されていますが、静画には違いを感じましたか?

春原 ニコニコ静画専用の新しい制作ツールがあって、それが使いやすかったですね。絵を描いて時間ごとに並べれば完成する。動画のほうが大変とか、そういうことは特にないんですけど、今回の漫画ではドワンゴの方がついてくれて何人かでやっていたので、大変でもあったし、楽しくもありました。

──『戦勇。』はファンタジーRPGの世界観ですが、内容はいつもの春原さんらしいキレのあるものでした

春原 最初の打ち合わせではファンタジーRPGの王道もので、男どうしの友情がテーマだったんです。

担当者 たしかに最初はそう言っていた。……ですが、上がってきた作品を見て「えっ」って(笑)。でも面白いなと思いました。

──友情もの……なんでしょうか(笑)。テンポもよくて、相変わらずの春原節が炸裂していましたね。苦労などはありましたか?

春原 ギャグ漫画にしようと思っていたんですけど、描いてみるとシリアスになりすぎちゃったんですよ。それで、7話くらいまで描いていたんですが、第3話から描き直しました。たとえば、第3話で勇者が牢屋に入れられてしまうストーリーは、書き直した時にできたものです。

──ニコニコ静画の場合、一般的な漫画とは表現スタイルが異なりますが

春原 漫画だと重いコマのとなりに軽いコマ──みたいに、コマからコマに目線が流れるように読んでいきますけど、静画は強制的に1コマずつ見せますよね。その1コマがつまらないとそこで(視聴者から)サヨナラされてしまうんです。かといって、静画のままコマ割り漫画にしてもテンポは悪くなってしまう。そこを練り直す苦労はありましたね。

──ほかに裏話があればぜひ聞かせていただきたいのですが

春原 あ、誤植がひとつ……。「わかってる」というセリフを「解ってる」と書こうとして、まず「理解」と入力してから「理」を消そうとしたんですけど、それを忘れて提出してしまって。で、公開版を見たらそのまま……「理解ってる」のまま出ていました(笑)。でもそのセリフをしゃべるキャラクターがちゃんと中二キャラとして受け入れられたので、「じゃあ、それでいいか」って(笑)

これがその「理解ってる」(第4話「勇者、焦る」より)

──たしかに裏話でした(笑)

担当者 えぇ~、そうだったんですか!? 中二設定だからあえてそうやったのかと……。そういえば、そのキャラについては、コメントで「勇者No.14だから中2設定?」っていうのがあったんですが、あれって本当ですか?

春原 えっ……と……そうです。そこまで考えてやっていたんですよ……!(笑)

──読者コメントの影響というものはあるんですか?

春原 コメントで(ストーリーの)展開も予想してもらえるんですよ。でも、もし自分が考えているものと同じ予想コメントが出てきたら、話を変えようとは考えていて。結局、ぜんぶ外れていたので、「よし!」みたいな(笑)。印象的だったコメントでは、「提供:○○○○(人名)」というものが流れていたんですが、担当の方が「その名前でググっても何も出てこないんだけど、友だちなんですか?」って。あれは誰だったんでしょうね。でもこういう話をするとコメントが「提供:○○○○」だらけになるかもしれませんけど。

──「フリなのかな?」って思ってしまいますね。他にユーザーからの反響などはいかがでしょうか

担当者 コメントの数もすごかったんですが、春原さん自身にも1,200件くらいのメールが届いているんです。

──メールで千件……すごいですね

春原 そうですね。ありがたいです。……これ、僕の自演ってわけじゃないですからね! 『戦勇。』で僕を知ったという人も多くて、Twitterなどでも反響をいただいて「やった!」と思いました。

──担当者としても今回の企画は成功だったと?

担当者 新しい企画ということで見込みは低めに設定していたのですが、想定よりもはるかに良い結果が出ましたね。再生数は当初の予想の3倍以上でした。

春原 じゃあ今15万再生だから、予想は5万だったわけか……。

──『戦勇。』は回数を重ねても再生数が落ちないのが印象的でした

担当者 手軽さでしょうか。30分間とか見なくてもいいですし、「進む」「戻る」といった機能を使えば数分で読み終わりますし。この機能はすごく使いやすいということで好評でしたね。

──ニコニコ静画の今後の展開について教えてください

担当者 ニコニコ生放送のほうで、静画で描いたものをその場で見せるという機能が導入されます(10月14日)。また、生放送の画面にその人が描いた静画を出すと、逆にニコニコ静画のほうでも「今放送中です」という情報は出そうかと。そういった生放送との連携は入りますね。

──それは絵師の方にとっては朗報ですね

担当者 もちろん漫画も強く打ち出していきたいと思っています。ウェブ漫画って紙で出版することを前提にしていると思うんですよ。でも僕らはそこにこだわらず、ニコニコで楽しめるものを作っていきたいなと。それって作家さんにとっては新しいスタイルになると思います。漫画としての表現方法もそうですし、コメントを作品に生かしていくことでライブ感を出したりと、みんながコメントしながら楽しむことを前提につくることで、新しいおもしろさを作り出していきたいですね。あとは、早めに漫画投稿機能も入れていきたいと思っています。

*  *  *

今回の成功を機に、今後も続けてやっていくことになったという『ニコニコ漫画』。次回は10月末から、新しい作家陣も迎えての再スタートを切るという。『戦勇。』の続編も登場する予定だ。

大会議やミュージカルなど、新たな才能発掘に意欲を見せるニコニコ動画プロジェクトの一環として、ニコニコ静画の新展開にも注目していきたい。

春原ロビンソン直筆『戦勇。』イラスト色紙を1名様に

2010年10月22日までにご応募いただいた読者の中から抽選で1名様に、「春原ロビンソン直筆『戦勇。』イラスト色紙」をプレゼントいたします。

ご提供 : ニコニコ動画

マイコミジャーナル1クリックプレゼントは、各企業様のご協力をいただいて、読者の皆様に先着&抽選で素敵な賞品をプレゼントする企画です。マイコミジャーナル会員であれば誰でも申し込み可能です。奮ってご応募ください。

応募方法 : マイコミジャーナル会員でない方は、「プレゼントに応募する」ボタンをクリックして案内に従って会員登録を済ませてからご応募ください。※会員登録されていても追加情報の登録が必要な場合があります。

賞品名:春原ロビンソン直筆『戦勇。』イラスト色紙(抽選・1名様)
応募締切:2010年10月22日(金)
発表方法:2010年10月26日(火)、当選者発表ページにて発表させていただきます。