そんなモンスターマシン「あから」を迎え撃つ清水女流王将も、和装で臨み気合い十分のご様子。そのふるまいからも、凛とした緊張感が伝わってきます。

対局直前、駒を並べる清水女流王将。奥に座るのは日本将棋連盟の米長邦雄会長(左)と「トッププロ棋士に勝つためのコンピュータ将棋プロジェクト」の松原仁副委員長

清水女流王将の正面にいるのは、手のない「あから」の代わりに駒を動かす指し手の方。サイボーグではありません。

……おや?

よく見ると、対局時計の隣に写真がありますね。どこかで見たことのある人のような……。

は、羽生さん!? やや不鮮明ですが、間違いなく羽生善治その人です!

なぜか、対局場には羽生善治名人の写真が置かれているのでした。 羽生名人は情報処理学会の研究に多く協力をしていますから、学会側が敬意を表して写真を置いたのでしょうか。あるいは、羽生名人も同じ人間である清水女流王将を応援してるということなのでしょうか。

つつがなく駒も並び終え、定刻の午後1時。いよいよ、対局が始まりました。先手が清水女流王将、後手が「あから」です。 この注目の対戦、開始直後から期待を裏切らない展開を見せてくれたのです。4手目、いきなり「あから」が意外な手を指しました。 それが、この3三角。互いに向かい合った角の交換を誘った手です。

この4手目に早くも会場がざわめいた!

将棋には定跡と呼ばれるある程度決まった指し方の手順があります。しかし、このタイミングで角交換すると、実戦例が少ない定跡からは外れた将棋になりやすいのです。定跡から外れた将棋というのは、必然的に経験やデータよりも読みの力や構想力が問われる、いわば力と力の勝負になります。

つまり、これは「あから」が

「ガチで勝負しようぜ!」

と清水女流王将を挑発してるともいえる一手なのです! これに対して清水女流王将は

「やってやるわよ!」

といわんばかりに堂々と受けて立ちます。清水女流王将には定跡形の将棋に戻す手段もあったのですが、敢えてコンピューターの挑発に乗ったのでした。コンピューター相手とは思えないなんとも人間くさい、シビレる駆け引きではありませんか! こうして、序盤早々から局面は実戦例の少ないレアな形となります。

その後、中盤戦は一進一退の緊張感のある応酬が続きました。清水女流王将は事前に相当コンピューター将棋を研究してきたとのことで、コンピューター独特の指し方にも上手く対応し、互角以上に戦っていました。一時は清水女流王将が有望と思える局面も登場しました。しかし……続きを読む。