──しかし、中盤から終盤へ差し掛かかったころ「その手」は出現したのです。

「あから」がこれぞコンピューターの一手ともいえる、人間の感覚ではまず指せない手を放ったのです。それがこの局面。

65手目。次は後手の<あから>が指す番

普通の感覚ならまず気になるのがA地点にいる清水女流王将の桂馬です。清水女流王将が持駒にもう一枚桂馬を持っているのがポイントで、B地点に持駒の方の桂馬を打つ手があるのです。

図のように2枚の桂馬が連携して、一気に「あから」の王様に迫る手がある

桂が2枚あるため、王手した桂を取ってもA地点の桂が跳ねてきて、更に王手されます。今はまだ大丈夫なのですが、清水女流王将に駒を渡すとこの王手から詰まされることもあるという、「あから」にとってはやや危険な局面。特に角は絶対に渡してはいけない局面なのです。もし人間だったら、無理に攻めずに守備を固める手や、桂馬の王手を防ぐ手を指そうとするところです。

しかし、「あから」が指した一手は……

5七角!

魔剣・5七角!

これは、清水女流王将も、控え室で検討していたプロ棋士も全く予想していなかった理外の一手でした。桂馬の王手を恐れず、完全にシカトして攻めてくるのも驚きですし、絶対渡してはいけない角をこの位置に打つのも驚きです。

これは人間には指せない手。特に将棋の心得があればあるほど、指せない手です。 また、この手が本当に良い手かどうかは分かりません。

しかし、勝敗はこの手で決まりました。この一手が清水女流王将を惑わせ、次の一手を間違えさせたのです。……続きを読む。