──日本の出版界では、電子書籍に対する抵抗感が根強いようです
感じるのは、世代間の温度差。いまの50代は、とりあえず自分たちが働いている間、何となくお茶を濁して既得権益にしがみつき、現実から目をそらして、どうにか収入を維持して定年まで逃げ切れればいいと考えている人が多い。一方、若い世代は危機感を抱いて、覚悟を決めて新しい流れに乗ろうとしています。
デジタルネイティブ世代の最先端は1971生まれあたりですから、そろそろ40歳になる。あと10年もすると、いまの50代は次々とリタイアして、いまの30代が経営などの意志決定に参画するようになってきますから、2020年になると出版界でいまとは違った地平が見えていると思いますよ。
──佐々木さんは大新聞の記者から雑誌のデスクと、経歴的にはオールドメディアの保守本流を歩まれてきた印象があります。それがなぜ、オールドメディアのカウンターパートに立つようになったのか、少々不思議です
学生時代、パソコンを使った市民運動ネットワークに参加していたんです。草の根BBSなど、黎明期のパソコン通信を活用していました。「これからはパソコン通信で世界が変わるよ」なんて話を同世代の連中としていましたね。だから、もともと現在のようなスタンスが素地にあったんです。
新聞記者になったのは、当時はまだ新聞に勢いがあって光り輝いていたし、"日本のインテリジェンスの集積地"みたいな印象があったから。ただ、いざ入社してみたら古くさい考えのオジさんたちがいっぱいいて驚きました。とはいえ「取材をして、記事を書く」というジャーナリストの基本を徹底的に叩き込んでもらったので、とても勉強になりましたし、経験はいまも役立っていると思います。
また私の中では、「ITのようなテクノロジーパワーが、徐々に社会に浸透・侵食していく実相をきちんと描いていく」という仕事上のテーマが一貫してありますから。
──電子書籍、普及するでしょうか
普及するでしょう。しないわけがない。よく「最近の若者は読書をしない」と批判されますが、"文字を読む"という営みでとらえるなら現代人は膨大な量を読んでいます。パソコン、タブレット、スマートフォンなどを介して常に文字と接していて、膨大な情報に触れています。人類史上、これほどまで多くの人が大量の文字を読みこなしている時代はなかったでしょう。
要するに、どんな媒体で読むか、という手段の違いであって、選択肢の幅が広がっただけ。あとは慣れの問題ですよ。「電子書籍では紙のページを繰る、という行為がないから味気ない」という声もありますが、だったら日本古来の巻物はどうなんでしょう。長い画面をスクロールしているのと同じなのでは。
「本」という媒体は、膨大な情報量をコンパクトにまとめて持ち運びできるもので、たしかに画期的な発明でした。でも、太古の昔はパピルスや羊皮紙、石版、木の板に文字が書かれていて、それを手にして読んでいたわけです。つまりはタブレット的なものですよね。古代人から見たら、もしかするとiPadやKindleのほうが本よりもしっくりくるかもしれませんよ。
本という存在自体が好き、というニーズがあるのもわかります。だから、ユーザーの好みで自由に媒体を選べるようになればいい。というか、それだけのことなんです。媒体のバリエーションが増えるけど、本そのもののコンテンツが放つ魅力や強度は変わりません。
そして、これからの10年で、電子書籍の大きなうねりが出版業界にさまざまな変化を起こしていくことでしょう。後年振り返ったとき、2010年が電子書籍がもたらした変革の最初の年だった……そう記録されているはずです。
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