トレードシステムを開発するインディ・パ 代表取締役の本郷喜千氏と、統計学を使ったトレードシステムの選び方についての著書のある山本克二氏が、「統計学はシステムトレードにどう有効なのか」というテーマに関し、対談する第2回。

前回は、システムトレードそのものについて、その発展の歴史的経緯や、日本における状況、レバレッジ規制がシステムトレードにとって追い風になる可能性などについて話していただいた。今回はいよいよ、トレードにおける統計学の有効性について、両氏に語っていただいた内容を紹介する。

トレードにおける統計学の有効性について、本郷喜千氏と山本克二氏に語っていただいた

――ずばり、統計学はシステムトレードにとって、どう役に立つのでしょうか?

山本 統計学の何がいいかということについて聞かれた場合、以下の3つのポイントを答えるようにしています。(1)数値で考えることができる、(2)偶然性を排除して物事を見ることができる、(3)バイアスが排除できる、です。

1の「数値で考えることができる」についてですが、確率統計によって数学的な処理をしないと、どうしても定性的な基準でトレードを決めてしまうという問題があります。例えば、「上昇トレンドに入ったから」とか、「今円高傾向だから買う、もしくは売る」などといったものです。定性的な表現の場合、感情に左右されて基準がぶれるんですね。結果的に同じ状況があったとしても、毎回判断が違うということになって、言ってみれば、行き当たりばったりの判断になりがちです。

これに対し、数学的な方法で数値を出す統計的な手法では、はっきりと基準値を設けることができます。例えば、「ある数字が10以上だったら売る」とか、「ある数字が10未満だったら買う」とかです。

定量的な判断ができると、そこから得られるメリットというのは、計り知れないものがあります。「感情に左右されず、迷わないからスピードが速い」「ぶれない」というものです。

――そうですね。今は円高とか円安とか言っても、基準を設けていないと、どこからどこまでが円安で、どこからどこまでが円高か、分からなくなってしまいますよね。

山本 ポイントの第2点「偶然性を排除して物事を見ることができる」の「偶然性」ですが、我々がトレードした結果というのは、ある意味偶然の塊なんですよ。そういうものに、統計的な処理を加えることによって、偶然性の先にある本質である「システムの実力」が見えてくるというメリットがあります。

ポイントの第3点「バイアスが排除できる」の「バイアス」というのは、人間というものは偶然に意味を付けがちで、たまたま勝ったのに、「あの時こういうことをしたから良かったのかなぁ」と思ったりすることを指します。例えば、サイコロを2回振って、1の目を2回出すというのは、36人いれば1人ぐらいは、出せるはずです。では、1の目を2回出したら、その人はサイコロの腕がいいと言えるでしょうか。それは、偶然ですよね。

山本氏が運営するFXブログ「システムトレード研究室」トップページ画面

つまり、トレードも同じことで、10回連続して勝ったからこのシステムは素晴らしいという風に、それが偶然であったとしても、そこに意味を付けてしまう。ですが、確率統計を使うことによって、このくらいのことは偶然であるはずだという、客観的な目を持つことができるのです。

――なるほど。偶然性とバイアスを、統計的な処理で排除できるわけですね。それは、すごいことですね。本郷さんは、確率統計が、システムトレードにどう生きるとお考えですか?

本郷 私はシステムを作ることに主眼を置いていますが、システムを作るのにも、当然根拠が要ります。逆三角形の点が3つあると人間の顔に見えるように、人間のバイアスが作り出すパターン認識の作用というものがあって、テクニカル分析というのは、それと同じなんですね。それでやって勝てる場合もあるんですが、「根拠を持ったトレーディングをやったらどうですか」というのが、私が一番言いたいことです。

ロジックを作り出すよりも先に、マーケットを統計解析して、どういう性質を持っているか分析してみませんか、という提案です。ひまわり証券のセミナーでは、値動きの統計をとって、ドル円のマーケットでは、標準偏差というバラツキがどれぐらいか見てみて、どういう分布になるかエクセルのグラフに描いてみてみましょう、というようなことをやりました。

システムは、マーケットを統計解析しないと作れないと思っているので、確率統計による分析は、前提条件になります。

――確率統計によるマーケットの分析が、システム開発の前提条件になるということですね。

山本 私は統計学を勉強し始めて10年以上になりますが、もともとシステムのプログラム開発をやっていて、この分野に入りました。統計学というのは、工場を持っているような企業であれば、工場の生産系の品質管理に役立てることで有名ですし、最近では、統計学の技術を使った企業経営も行われています。私もそういうプロジェクトに参加するようになり、統計学の勉強をさらに深めました。

さきほど偶然性を排除すると言いましたが、私は「偶然のノイズ」という言葉を使っていまして、経営情報もトレードの結果もそうですけど、全て「偶然のノイズ」というものに覆い隠されていまして、なんとなくそこに事実があるようなんですけれども、なかなか見えない。ところが統計学の技術を使うと、まさに目からウロコといいますか、真実が見えてくるのです。

システムトレードでは、毎回の結果のバラつきがどんな意味を持つか、実力があるかないか、偶然のノイズによって分かりません。統計学を使って、実際のデータからその実力を早く割り出せるのであれば、もしそれがマイナスのシステムであれば、早くやめることで時間の無駄を省くことができますし、勝てるシステムであれば確信をもって、長く安心して使っていくことができます。

――「偶然のノイズ」を、統計的な手法で排除し、真実を見抜けるというのはすごいですね。本郷さんは、統計学とはどのような形で関わるようになったのでしょうか。

本郷 私はトレードの分野で、最初はファンダメンタルズ分析をもとに行っていて、うまくいくときもあれば、損をする時もありで、結局、今から思えば、勝ったときもたまたま勝ったということです。

その後、FXで師匠につく機会があり、その方は裁量トレードで、テクニカル分析をもとにトレードをする人でしたけれども、その人について、1年くらい昼間は仕事をしながら、夜中5~6時間目を真っ赤にしてトレードをやっていました。

ですが、やっているうちに疲れてきて、「なんか違うな」っていうのがあって、システムトレードに目を向け始めました。そこで習ったテクニカル分析どおりにシステムを組んでトレードをやっても、実際には利益が出ないんですよ。「これはどこかおかしいな」と思って模索しているうちに、統計学の専門家に出会って、プロジェクトに参加してもらい、1年前くらいから自分自身でも勉強し始めました。


山本氏は、統計学を使うことでトレード結果から「偶然のノイズ」を取り払い、システムの真実を見極めることができる、一方本郷氏は、システムを作る前提条件として、統計的な手法によってマーケット解析が必要である、と、統計学を使う意味を語ってくれた。

最終回となる次回「後編」では、システムトレードに統計学を使う上での、読者へのアドバイスについて語っていただく。