――自分で作った曲と提供された曲で、歌う際の気持ちにちがいはありますか?

「自分で作った曲というのは、やはり自分の中にある気持ちなんですよ。ファンタジーなものを投影しているとはいえ、やはり自分の中にあるキャラクターだったり、自分自身の気持ちだったりするので、表現したいものが、作っている時点でかなり明確になっています。それが、提供していただいた楽曲だと、やはり受け取ってからそれをどうやって料理しようかなという感じになりますよね。なので、実際に表現する段階では自分なりの表現になるというところは同じですが、人と一緒にやるということは、私だけが答えじゃない。つまり、現場でやり取りをしていく中で、作ってくださった方の気持ちを受け止めて、それにどうやって自分を合わせていくかという感じになるので、少し歌うまでの過程にちがいがでるかもしれません」

――提供された曲は、自分にないものだけに、あらたな化学反応が起こったりすることもありますか?

「そこがやはり自分としては一番面白いと思っているところで、本当にケミストリーなんですよね。自分自身にこんな引き出しがあったんだと気付かされることもありますし、思いもよらない刺激を受けることもあります。なかなか自分発信の活動では受けられない刺激がたくさんあると思います」

――そんな中で、霜月さんの今を表しているという書き下ろし曲「導きのハーモニー」ですが、この曲のテーマについて教えてください

「今の時点で、自分の音楽活動に対してどういった気持ちがあるかということを立ち止まって考えたときに、やはりいろいろな人と一緒にやって、一緒に作り上げてきたものが自分の音楽にもなっているし、人と一緒にやることで、あらためて自分の個性が見えてきたりする部分がある。そういった人とのやり取りの中で、今の自分が形成されているんだということを強く感じているのですが、それはやはり誰かと一緒に奏でたハーモニーによって、自分自身も出来上がっているし、そのハーモニーを奏でることで、自分の音、自分の枠がはっきりしてきている。そして、そのハーモニーが自分を導いてくれているんだというところから、この『導きのハーモニー』というタイトルが来ています。直球です(笑)」

――そのままですね(笑)

「そうなんです(笑)。でもそのあたりのことを歌詞にもそのまま素直に出した感じになっていますし、私はもともとライブを積極的にやるタイプではなかったのですが、最近になってライブやるようになって、そこでファンの方と同じ空間で音楽を共有して、みんなで合唱したり、手拍子をしてもらったりすることで、一緒にハーモニーを奏でられたらいいなという気持ちも含まれています」

――自分の現在の素直な気持ちをそのまま表現するというのは、すごく簡単そうで、とても難しいことではないかと思うのですが

「私が一番最初にそれをやったのは、5年前の『あしあとリズム』というアルバムなのですが、それまでは自分自身のことを歌うことなんてなかったんですよ。私の場合、たとえばファンタジーの世界観を作って、自分がこういうことが好きですよっていうことを表現することによって、自分を表現していたところはあったのですが、『あしあとリズム』や『音のコンパス』、そして今回の『導きのハーモニー』は、本当に何もない状態で、自分の気持ちを出すというカタチになるので、特に最初は、変な話、テレがありました」

――自分をさらけ出さないといけないですからね

「どうすればいいのか、最初は本当にわからなかった気がしますね。結局のところ、自分をさらけ出すというよりも、"自分はげましソング"になっていると思います。感覚としては、『こんな私を見てー!』というより、自分自身をあらためて確認している感じですね。『自分ってこうだよね』『こうだから頑張っていこうよ』みたいな感じで、自分に言い聞かせているような歌になるんですよ、私の場合。だから自分自身の支えのような感じで、ちょっと迷ったときに聴くと、初心に戻ることができたりします。たぶん私の作り方は、自分を見てほしいというよりも、今の自分を残すことで、自分を励まそうとしているところがあるのかもしれないですね」

――その意味では、聴いてくれるファンの方には、この曲で霜月さんを知ってほしいというよりも、霜月さんの気持ちに共感してもらえるとうれしいという感じでしょうか?

「私を知ってほしいという意味では、私の作り出すファンタジーの世界観を知ってほしいという気持ちはすごく強いのですが、たとえばこの曲のように、自分のことを歌った曲で、自分のことを知ってほしいという感覚はあまり強くないですね。ただ実際、素直な気持ちではあるので、共感してもらえたらうれしいなとは思っています」

――今回収録されている15曲にはそれぞれに思い出があると思いますが、その中でも思い出深い曲がありますか?

「自分を引き出してもらっていると感じる部分があるのは、7曲の『Blade of Tears』と10曲目の『COSMOLAGOON』ですね。激しかったり、ポップで明るかったりという意味で突き抜けている感じです。この2曲は、ガストの阿知波さんと言う作曲家さんと組んでいる楽曲なのですが、阿知波さんもけっこう冒険される方で、『霜月さんが普段歌わないような感じの曲でひとつのカラーを作りたい』という気持ちがあるらしく、私もそれを楽しんでいるところがあります。一つの型にはまってしまうだけではなく、新しいものを提示されることで、自分自身の引き出しを増やすきっかけにもなりますし、歌い手として、マンネリなものを求められていない感覚、挑戦されているというとちょっと変ですが、そういった感覚があると『よっしゃ、やってやるぜ!』という気持ちにもなります。普段聴いていただいている方にはちょっと驚かれるような曲調ですが、自分としては、新しいものをドンドンと取り入れていって、自分のカラーにしていけたらいいなという、表現者としての欲がある曲になっています」

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