健康のためにジョギングをしたり、これからしようと考えている人は増えているようだ。ジョギングをするに当たって、知っておかなければならないことは何か。管理栄養士の大柳珠美氏に聞いた。

1.スタミナを支えるエネルギー源

運動時のスタミナを支えるエネルギー源には、筋グリコーゲン、血糖、血中遊離脂肪酸のほか、脂肪分解により得られるエネルギー源・ケトン体がある。マラソンやジョギングのように、ローパワーで運動時間が長くなるほど、筋肉中に蓄えられたグリコーゲンは減少し、血糖や血中遊離脂肪酸がエネルギーとして使われる割合が高くなる。標準的な体格の人で脂肪が10kg、グリコーゲンは250gほど蓄えられていて、カロリーに換算すると脂肪は90,000kcalだが、グリコーゲンは1,000kcalにすぎない。つまり、人は圧倒的に脂肪から多くのエネルギーを得ており、マラソンやジョギング時には、いかに脂肪をエネルギーにかえられるかが勝負の決め手となる。筋グリコーゲンや血糖は、ラストスパートを加速するスタミナ源として残しておきたい。

2.体をつくるたんぱく質系食品

減量目的で肉や魚、卵などたんぱく質を控えるのはアスリートにとって致命的だ。たんぱく質は、筋肉や骨、靭帯などをつくる材料として必須であり、たんぱく質を多く含む食品はビタミンB群も豊富に含んでいる。ビタミンB群のうちビタミンB1は、エネルギー生産に関わり、特に糖質を分解してエネルギーにするときには不可欠。ビタミンB1の吸収を高めるナトリウムも、発汗によって失われるのであわせてとりたい。また、ビタミンB2やB6は、成長ホルモンの生合成やたんぱく質代謝のキーとなる。スポーツというストレスのシャワーともいえる環境下においては、遺伝子レベルで細胞の修復も心がけたいところ。

細胞の分裂、修復に必須な栄養素はビタミンB12や葉酸である。日頃から赤身肉、肩肉、レバー、旬の魚、ほたてやあさりなどの貝類、たこやいか、卵、大豆製品などたんぱく質、ビタミンはしっかり摂取し、筋力アップ=パワーアップに努めておきたい。

3.運動性貧血に要注意

アスリートと貧血は背中合わせにあると言っても過言ではない。まずは物理的ショックによる赤血球の破壊だ。運動強度に比例して赤血球の破壊は起こりやすい。また、多量の発汗や尿から鉄の排泄量も増加する。汗1リットルにより0.5mgの鉄がロスされると言われている。鉄が欠乏すると、二酸化炭素の運搬能力が制限されるため筋代謝が抑制されたり、血中の乳酸値が上昇しやすくなり持久力が抑制される。鉄は胃や腸の粘膜障害や強いストレス下においても吸収能力が低下し、不足しやすいミネラルのひとつ。赤身肉、レバー、あさり、赤貝、かつお、大豆製品など、鉄が多く含まれるたんぱく質系食品に、鉄の吸収力を高めるビタミンCを含んだ新鮮な旬の野菜や果物を添え、毎食たっぷり摂りたい。

4.ストレスのシャワーに打ち勝つビタミンエース(A、C、E)

体重の調整や過剰な練習による免疫能力の低下は、感染症によるコンディショニングの悪化を引き起こす。マラソンの大会に出場するような場合、試合直前になって体調を崩さないためにも、免疫力を高める栄養素は日頃からたっぷり摂取しておきたい。免疫力強化の栄養素はビタミンA、C、E(エース)と覚えておこう。ビタミンAは粘膜を健康に保つはたらきがあり、下痢を防ぎ、また細菌やウイルスの侵入を防いで感染症に対する抵抗力をつけるのに役立つ。ビタミンCは、細菌やウイルスの侵入を迎え撃つ白血球のはたらきを強化するほか、自らもウイルスにしかけ、体を守り風邪を予防し回復を早める。そしてビタミンEは、エネルギーを生み出すときに生じる活性酸素から細胞膜を守るはたらきがある。細胞は体を構成する大切な基本要素であるため、細胞膜には常にビタミンEが待機し、酸化を防いでくれている。ビタミンAは、レバー、うなぎなどの他、緑黄色野菜によっても摂取できる。ビタミンCは赤ピーマン、菜の花、ブロッコリーなどの野菜と、いちご、みかんなど酸味のある果物から摂ることができる。ビタミンEは、うなぎ、はまちなどのほか、アーモンドなどの種実類、かぼちゃ、アボカドなどに比較的豊富に含まれている。

5.筋収縮とミネラル

筋肉をスムーズに収縮させる際に必須のミネラルはカルシウムで、そのはたらきにはマグネシウムが不可欠だ。その他、筋収縮にはカリウムやナトリウムなどのミネラルも関わっている。ミネラルはそれぞれがバランスを保ちながらはたらく特徴があり、どれかひとつが突出しても足りなくても良くない。また、アスリートにとってミネラルは発汗によりロスしやすく、パフォーマンスの低下を招きかねないので気をつけたい。カルシウムを摂取しようと牛乳をかぶ飲みすると、マグネシウム不足となるので要注意。カルシウムは乳製品だけに頼るのではなく、アーモンド、するめ、干しひじき、乾燥わかめ、干しえび、納豆、豆腐等、マグネシウムを豊富に含む食品と合わせて摂るようにしたい。

PROFILE : 大柳珠美(おおやなぎたまみ)
管理栄養士。NPO法人糖質制限食ネット・リボーン理事。明星大学人文学部卒業。二葉栄養専門学校卒業。都内の3つのクリニックで、糖尿病、機能性低血糖症、脂質代謝異常、肥満等、生活習慣病の治療、予防のための食事指導を担当。講演会、レシピ提案、監修等を通し、広く情報を発信。著書に『糖尿病のための糖質オフごちそうごはん』(アスペクト社)をはじめ、『糖質オフのおいしいお菓子とパン』(アスペクト社)、『満腹ダイエット』(プレジデント社)の監修等がある。