――設定的にぶっ飛んでいる役より、普遍的な人物の細やかな感情を表現しなければならない役の方が難しかったりするんですか?

西島 : 「そうですね。特に年老いてからの豊に関しては、監督が要求するいくつもの感情を表現しようとすると、どうしても繊細になってくるんです。でも、「年をとって恐怖感も感じているんだけど、まだこの男の内側には会社を切り盛りするエネルギーがあるような演技をしてくれ」と言われて……。年齢を重ねた後の演技はどうしてもエネルギーが落ちる方向へ行きがちですけど、監督が求めていたものは違ったんですね。その部分がいちばん難しかったです」

――まだ30代後半の西島さんが、60年もの積み重ねで得たものを演じるのは一筋縄ではいかない作業でしょうね。

西島 : 「そこは僕にはよく分かりませんけど……実際60代の方にお話を聞いたりして。そうしたら皆さん、当たり前ですけど深く物事を理解して、その上で迷ったり、いろんな思いを持って生きてらして。達観して見切ったというよりは、さらにエネルギーを秘めてらしたんですよね」

――演じる前に、相当念入りに土台を作り上げられたんですね。

西島 : 「監督に『事前の役作りも徹底的にやってくれ』と言われてましたし、他の作品に比べると桁違いに役作りをしたと思います。それがまたすごく面白くて、楽しかったです」

――体もかなり作られたそうですね。25年後を演じるために一度10キロ以上も増量したとか。

西島 : 「あれは大変でしたね。でも、それだけのことをやろうと思わせてくれる役だったですし。まぁ、撮り順の都合で増量した僕は登場しませんけど(笑)」

――若いころから撮影することになって、また体重を落としたんですよね。落とすのも大変だったのではないですか?

西島 : 「落とす方が簡単でした(笑)。すぐ落とせるような増やし方をしたんで。増やす方が苦労しましたね。お腹が空いちゃうと血糖値が下がって、体重がすぐ落ちちゃうんですよ。だから、増量中はずーっと食べてました。途中で何度も食べるのがイヤになったほど(笑)。あの時は周りに『サヨナライツカ』の話はしてなかったんで、『この人、なんでこんなに食べてるんだろう?』って思われてましたねきっと」

――ここまで増量したのは初めてですか?

西島 : 「そうですね。ただ、今回ほどではないですけど『さよならみどりちゃん』(2005年)の時に、監督に全然求められてないのに増量したことはあります(笑)。あの時は何となく弁当を一度に2個食べたりしてました(笑)」

――1年もの長い撮影期間で、体重の増減に加え、演技で求められる質の高さ。相当キツい現場だったと思うのですが、実際はいかがでした?

西島 : 「今まで僕が経験した現場では桁違いに大変でした(笑)。これ以上キツいのがあるのかなってくらいダントツですね。特に、特殊メイクのまま30時間撮影をした日がキツかったです。あと、この間プロモーションでタイに行って思い出したんですけど、"豊が沓子さんのいるホテルに車でやって来るんだけども、やっぱりやめて去る"というシーンを3日かけて撮影したんですよ。でも、本編を見たらカットされてましたね(笑)」

――カットされたシーンは相当な数あるんですか?

西島 : 「さすがに、そんなことはないですけど(笑)。ただ、すごく何気ないシーンでも3日かかってたり、クレーンを使って撮った'70年代のタイのシーンでは、1カットに半日くらいかかってたり……。監督がちょっとでも疑問を感じたら、撮影をやめて話し合いとリハーサルになることも頻繁でした。そういうことが普通に行われるものすごく贅沢な現場でしたね」

――本編を見て、稀に見るエネルギーを感じて圧倒されてしまいました。スタッフ、キャストの皆さんは相当なエネルギーを注いだのではないですか?

西島 : 「そうですね。現場の集中力も高かったし、それを1年間キープしたことはスゴイな、と思います」……続きを読む