――ここには、五線紙と鉛筆と小さな楽器があるだけですね。

「こんなふうにして、やってるんですよ。楽器なしで作っちゃう。それで後で、コードを付けるときに試しに弾くという(笑)」

――テレビシリーズの作曲に着手されるときは、どのようになさいましたか?

「絵がまだ何にもできてないときに作曲しなきゃいけないでしょ。打ち合わせのときに、企画書をいただく。そしてでき上がった台本の2、3冊はいただく。さらに説明を受ける。そして、主な主人公の絵をもらって、こういうロボットだと。そういう説明を受けて、TVドラマのストーリー、作品の主張する精神などを説明されます。作曲は主題歌から始めますが、まずは作詞から。東映はほとんど詞が先行ですから」

――BGMの構成は、どのように決まりますか? 例えば、戦闘シーンとか。

「戦いの音楽。これから進撃していくときの音楽、敵にやられそうな音楽、敵の方が中心で攻めてくる音楽と。戦闘の音楽でも、たくさんなっちゃうんですね」

――曲も、オープニング、エンディング、挿入歌、ブリッジ、アイキャッチなど、丸ごと作曲なさるわけですね。

「まず、主題歌だけは撮影を開始する前、または編集を始める前に必要なのです。それからBGMですね。BGMが録り終わってから、挿入歌も作ろうじゃないかということになります」

――編成は、どのようになさいましたか?

「私はブラスを大勢使いたいほうで、ブラスで、トランペット3か4にトロンボーン3か4、サックス1本。で、リズムセクションがピアノ、ベース、ドラム、ギター、ラテンパーカッションという編成です。木管でサックスが、フルート持ち替えというようなのが最小編成というか」

――そのあたりの編成は予算に合わせて……。先ほど、詞が先に来たというお話がありましたが、詞先とメロ先の違いについてうかがえますか。

「詞先の場合は詞に合わせなきゃならないから、非常に難しいんですけど、逆に詞によって誘導されてメロディーが独特なものになるということはありますね。で、こんど詞がないと、自由には動けるんだけど、やっぱり今度はそれなりのマンネリ化ということも起こらないとは言えないですね。詞があるとね、それに引っ張られて、工夫してやるじゃないですか。そういう面白さもありますね」

――いわゆる、宙明サウンド(「ちゅうめいさうんど」。ちなみに、渡辺宙明さんのお名前の読みは「わたなべ・みちあき」。「わたなべ・ちゅうめい」はペンネーム)の特徴というのは、ご自身ではどのようにお考えでしょう?

「やっぱりねぇ、特徴があるんですね。特に初期のころはね、あのフレーズ、メロディーの節回し、それから派手なブラス。非常にリズミカルな、特徴のあるリズムの持ったブラスの使い方。これらを総称していってるんだろうと思いますけどね」

――マイナーペンタトニック、つまり2、6抜き短音階であるとか、前奏やBGMの特徴ですとブルーノートの使用、ややジャズ風の音楽……。

「ええ、ブルーノートはね、歌のメロディーではあんまり使えないけど、イントロ、BGMではよく使いましたね。マイナーペンタトニックはねぇ、普通のマイナーのようなふうにはなってないんですよ。で、『マジンガーZ』にしても、2番目、6番目の音も使ってますしね」

――作曲なさったものをテレビ放映で、ご覧になって、どう使われているかが分かると。

「そうそう。まずい使い方されることもあってね、いやぁ、これは困ったなということもありましたよ(笑)」

――『荒野の用心棒』や『夕日のガンマン』など、マカロニウエスタンの曲がお好きだとか。

「例えば『ハカイダーの歌』。あれのイントロなんかはね、誰の真似じゃあないけど、マカロニウエスタン的な影響がありますよ。あれは自分でも、うまくいってるなって思ってるんですが」

――オリジナルビデオアニメ『戦え!!イクサー1』の敵役の曲が、ハカイダーのイメージと重なるんですが。

「あれは監督の希望でね、ハカイダーの感じでやりたいという。口笛まで出てきた、同じような。で、僕は、大体の感じがいいか、そっくりなほうがいいか聞いたら、そっくりなほうがいいと(笑)」

――「バンバラバンバンバン」のように、スキャットを比較的多用されていますね。

「ああ、それはねぇ、そういうことが好きなんですね。確かに多用しましたね」

――スキャットというのは、歌詞を「歌う声」というよりは、人間の声を楽器の一種として使うという意味合いがありますよね。

「ええ、そうですね。そういう場合がわりとありますね」

――作曲なさるときに工夫される?

「絶えずそういうことが、頭にありましたから。『あ、これ使えるなぁ』という(笑)。『ここで使えるぞ』という。まあ、言葉がちょっともうひとつ何かあるといいなってときは、私が勝手にそういうスキャットみたいなもの入れたり、ちょっと一言入れたりして。あるいは、歌詞の一部を繰り返したりして、メロディーとしてかっこよくなるように心がけてはいました。その場合は、スタッフには黙ってやっちゃう。まあ、それでも文句は出ませんでしたけどね(笑)」