基本的な癇のつけ方を紹介した前編。後編では、東京・三軒茶屋の和食店「木村商店」木村国博さんにご協力いただき、燗酒向きの日本酒をタイプ別に紹介し、それに合う肴も提案していく。晩酌の際の参考にしてみてほしい。
旨みたっぷり、燗でスッと喉を通るタイプ(適温: 40℃~55℃)
日本酒一例: 「菊正宗・嘉宝蔵 生もと本醸造」(兵庫県)
旨みとキレを兼ね備え、コストパフォーマンスにも優れている(720mlで1,000円程度)。灘の宮水で仕込まれた、芯の太い男酒。
合わせる料理一例: 「里芋と鶏の煮物」
煮物の具材は里芋、鶏肉、人参、蓮根。ほうれん草は別にゆがいている。だし、醤油、酒、味醂、砂糖で味付け。
旨みがたっぷりと詰まっている生もとの酒や、山廃の酒は冷たいとかたく感じ、喉に引っかかるケースがある。このような酒は熱燗(50℃~55℃)にすることによって飲み口が滑らかになり、余韻で旨みが滲み出てくる。
灘の酒はコクがあるので、肴にはしっかりとした味付けの料理、今回は醤油ベースの煮物を採用。酒のコクが食材の味をそのまま受けとめ、すっきりとした後口になった。芋類の煮物によく合う。
やわらかで伸びのあるタイプ(適温: 45℃)
日本酒一例: 「臥龍梅 純米吟醸 生原酒 ひやおろし(山田錦)」(静岡県)
精米歩合が55%で吟醸香華やかな生原酒。冷酒として飲まれることが多い銘柄である。
合わせる料理一例: 「薯蕷(じょうよ)蒸し」
山芋、魚のすり身、卵白をあわせて生地にし、人参やキクラゲ、ゆり根、しめじと鰻蒲焼を混ぜ込み、蒸し上げてから餡をかける。ワサビを薬味に。
この銘柄は冷酒だと熟成感を感じ、しっかりとした味付けの料理に合わせる。しかし燗酒にするとやわらかで、味わいが伸びやかになる。
合う料理は、豆腐や湯葉、ポテト、もしくは白身魚のすり身を使った素朴な内容となる。今回の「薯蕷蒸し」は、ふんわりと甘みを含む酒の邪魔をしない味付けに仕上げていただいた。結果、料理と酒、互いに強い干渉をしない組み合わせ。ワサビが清冽で、いいアクセント(料理と酒のつなぎ役)となっている。
癖はあるが、燗で飲みやすくなるタイプ(適温: 50℃)
日本酒一例: 「田びと 純米山廃仕込み 長期熟成酒(山田錦 / 9号酵母)」(秋田県)
非常に個性的な酒。冷酒としての印象はのっぺりした味わいで、苦みが残る。
合わせる料理の一例: 「カニの肝和え」
使用した食材はカニ味噌とカニのほぐし身、セリ、ゴマ。カニ味噌にその他の食材を合わせるだけのお手軽酒肴だ。
燗酒の楽しみは、その酒の別の表情を見ることができる点にある。「田びと」は荒々しく、取っつきにくい酒だが、燗酒にすると奥に隠れていた旨みが顔を出す。燗にすると、燻したような香りが感じられたため、「カニの肝和え」の前に実は薫製料理を合わせて試食をしてみた。豚の塩漬け三枚肉のスモークにしたのだが、これが見事にバッティング。脂の甘みで、酒の苦みが強調されてしまった。
続けて、生姜などの薬味で和えたシメ鯖も合わせた。生姜と酢によりさっぱりとした味の肴で、一口ごとに日本酒が恋しくなる。しかしながら、特に「田びと」との相性が優れていたわけではなかった。そしてたどり着いたのが「カニの肝合え」。「田びと」は苦みという一点に味わいが収縮してしまう、謂わばコンパクトな印象の酒である。それが磯の香り、カニ味噌の甘みにより、大いなる広がりを持った。甲殻類や貝類を使った料理とよく合いそうだ。
これら3銘柄は、燗酒の可能性を知っていただくことを念頭に置いて選んだ。「旨み」や「熟成感」のある酒、もしくは「コク」がある酒は、燗にすると飲み口が滑らかになる。冷酒で飲み口が「かたい」と感じる酒も、温めることでほどけるように飲みやすくなることがある。こういった観点を参考に、燗上がりする酒を選んでみるとよい。
冷酒がよいのか燗酒がよいのか、酒の個性を読み解いて、料理や季節に合わせて好きな方を選ぶ。酒の選び方に幅が広がり、酒肴の楽しみは増すはずだ。