福井鉄道は福井県の福井市と越前市を結ぶ福武線を運行する会社だ。線路はほぼ南北方向に敷設されており、距離は21.4km。一部路面区間があるため、電車は鉄道タイプと軌道タイプが混在する。それだけでもおもしろいけれど、もうひとつユニークな車両がある。昔の木製貨車のような姿の機関車「デキ11」だ。同社ではこのほど、イベント「鉄ちゃん鉄子さんまつり」を開催した。そこでは「デキ11」の内部も見せてくれるというので、ワクワクしながら出かけた。

福井鉄道デキ11

「鉄ちゃん鉄子さんまつり」チラシ

イベント会場は西武生駅構内だ。西武生駅はJRからの乗り継ぎだと武生駅のほうが近い。JR武生駅から約400m離れたところに福武線の武生新駅がある。武生新駅は福武線の南端。構内には新旧の電車が留置されていて興味深いが、まずは隣の西武生に向かった。きっぷは500円の1日フリー券を買った。イベントに参加するには1日フリー券、電車DEランチ券、電車DE温泉券のいずれかを購入するという条件がある。ちなみに電車DEランチ券は提携ホテルレストランのランチクーポン付き、電車DE温泉券は提携温泉旅館との入浴と食事付きとのこと。鉄道を利用してもらうためのお楽しみ企画だ。

路面電車タイプの電車で西武生に着くと、ホームに隣接した留置線に展示車両が並んでいた。ホーム側から200形電車、デキ11、デキ3形だ。すでに100人ほどの鉄道ファンが来場し、撮影を楽しんでいた。

西武生駅構内

デキ11

さっそくお目当ての「デキ11」へ。真横から見ると昔の木造有蓋貨車に見える。国鉄の形式で言うとワ1形。しかし屋根にはパンタグラフが付いており、両側には運転台がある。連結面側から見ると運転台の窓が開いて顔のように見える。古い鉄道車両は人の顔に見えるデザインが多い。デキ11は除雪用に使われているらしく、黄色い除雪板が付いている。それが分厚い唇に見えて、なおさら愛嬌のある顔に見える。

デキ11は、福井鉄道が発注して1923(大正12)年に製造された。同社の生え抜きであり最古参の車両だ。おそらく最初は電動貨車として使われたと思うが、案内してくれた福井鉄道の三村氏によると、彼が入社する前から電気機関車として使われていたそうで、貨車だった時代を知っている人はいないらしい。三村氏の案内で内部を見せてもらったところ、そこは機械がぎっしりで、間違いなく機関車だ。荷物を載せる余裕はなさそうだった。

デキ11の下回りは、2軸の台車が2つ。国鉄式にいうとED型だ。大正時代生まれらしく、車軸とモーターを直結した吊り掛け式。動かすとウォォォンという唸り声が聞こえる。86歳のおじいさん機関車。いつまでも頑張ってほしい。

デキ11の真横

除雪板はネジ式で上下する

運転台。雪かき出動時は運転士含め4人が乗り込む

これがデキ11の中身だ! 機械がいっぱい

デキ3

古風な凸型電気機関車「デキ3」は車体の下部に、「東洋電機 昭和26年」というプレートがある。1951年製だ。東洋紡績の貨物機関車として生まれ、名古屋鉄道、遠州鉄道を経て、1975(昭和50)年に福井鉄道にやってきた。福井鉄道では1983(昭和58)年まで貨物輸送を実施しており、その主力機関車がデキ3だ。現在は西武生構内の車両入れ換え作業などに使われているという。

デキ3はイベント以外で本線を走ることはない。機関車の役目の1つに「本線で電車が故障した場合の救援」があるけれど、福井鉄道では同系列の電車が救援に向かい、連結して戻ってくるそうだ。除雪板が付いているけれど、これは試しに作った物とのこと。後述するが、福井鉄道のメカニックマンは日々試行錯誤し、車両の改良を行っているらしい。

デキ3形機関車

これがデキ3の運転台

200形(203編成)

正面2枚窓、昭和時代中期に流行した湘南電車タイプの電車だ。福井鉄道オリジナル形式の電車で、急行電車用に製造された。201編成、202編成、203編成の3本が現役で、この203編成は1962(昭和37)年製。急行列車用と言うだけあって、車内はボックス席が配置されている。2両の車体を台車で連結する連接車体方式を採用しているところが珍しい。地方の長距離路線でも通用する車体だ。でも、こういう電車と路面電車タイプが同じ区間を走るところが福武線のおもしろさだ。

モハ203形

連接車体を採用している

工場見学

今回のイベントは、車両の撮影会、廃車部品のオークション、工場見学の3本立て。展示車両を撮影した後、三村氏の案内で車両工場を見学させて頂いた。工場は木造で、かすかに機械油の匂いがする。建物は60年以上も使われているとのこと。3年後を目処に建て替える計画があるそうだ。鉄道記念物にしてあげたいけれど、働く側とすれば台風ではがれた屋根材やガタついた窓枠は心許ない。安全で働きやすい環境になるなら取り壊しも仕方ないか……。

2本の点検ピットがあり、2編成の車両を収容できる。電車は14日毎に点検整備を行っていおり、6人のメカニックスタッフがローテーションを組んで作業しているそうだ。奥には非公開の塗装用建物などもある。かつては50人以上の職員がいて、電車を自社製造した時期もあったらしい。

築60年以上の車両工場

黄色い機械が名鉄より譲渡されたジャッキ

点検ピットにある黄色いジャッキ。実はコレ、名鉄岐阜市内線から譲渡されたという。名鉄の岐阜市内線が廃止になったとき、低床タイプの電車は福井鉄道に譲渡された。そのとき、車両だけではなく、点検整備に必要な機械や工具なども一緒に譲渡されたそうだ。「あの時は研修や改造の見学もあったので、ほとんど毎日、トラックで岐阜へ通ったんですよ。いただけるものはなんでも貰っちゃおうと思って(笑)」。

点検ピットの隣の部屋は部品製造所だ。機械工作好きなら見逃せないツールの宝庫。設備は古くても手入れが行き届き、たいていの電車の部品はここで作られる。とくに古い電車の場合は外部調達できないので、なんでもここで作るしかない。製造工場時代のクラフトマンシップはここに残っているようだ。

交換前の台車とモーターが並ぶ築

ほとんどの交換部品は自作という