寒くなると、日本酒が恋しくなる。秋には前年度から寝かせて旨みを増した「ひやおろし」が発売され、11月には絞りたての新酒も登場。秋冬は熱燗もおいしい季節で、まさにこれからが日本酒の旬! 自宅で飲むのもいいが、実際に酒蔵めぐりをして見るのはいかがだろうか。今回は、都心部からも行きやすい東京市部や埼玉の酒蔵3カ所を紹介する。

登録有形文化財の酒蔵で造る日本酒

東京・福生の「石川酒造」

東京に酒蔵があるのは、意外と知らない人も多いのではないだろうか。水のきれいな奥多摩付近には多数の酒蔵が存在する。訪れたのは、東京・福生の「石川酒造」。こちらは文久3(1863)年創業の老舗で、明治時代に建てられた酒蔵はすべて国の登録有形文化財。しかも、今もなおその酒蔵で日本酒造りを続けているのだ。醸造機器などは新しいものを入れていっているものの建物自体のメンテナンスが欠かせないが、歴史を重んじながらの酒造りを大切にしている。

本蔵は明治13(1880)年建築。中に入ると、外より温度が低めでややひんやり。非常に厚い土壁と、熱を逃がすための2、3階部分の空間のおかげで、年中酒造りに適した低温に保たれているそうだ。また、同酒造では1998年より地ビールも製造しており、その地ビールと日本酒が飲めるイタリアンレストラン「福生のビール小屋」と和食・そばの「雑蔵」も敷地内にある。蔵見学の締めくくりに訪れてみてはいかがだろうか。

1880年築の本蔵内

敷地内にある和食・そばの「雑蔵」

「雑蔵」では、日本酒と地ビールに合うそばと、旬の素材を使ったつまみが充実。写真は「ざるそば」(800円)、「天麩羅盛り合わせ」(1,350円)、「生牡蠣」(800円)、「長芋の酒盗和え」(600円)。日本酒も蔵元ならではの品揃えで、季節ものを含めた10種類ほどが楽しめる

石川酒造の一本「多摩自慢 たまの慶 純米大吟醸」
しぼりたて生酒を瓶に詰め、パストライザー(瓶燗火入)という手法で丁寧に火入れをし、吟醸酒独特の香りを逃さず仕上げている。熟成したまろやかで幅のある味わいで、ぬる燗がオススメ

樹齢800年の大ケヤキの隣で造る「幻の酒 嘉泉」

蔵の脇には樹齢800年とも言われるケヤキが

次は、同じく東京・福生、玉川上水沿いにある文政5(1822)年創業「田村酒造場」。酒蔵の脇には、樹齢800年ともいわれる大ケヤキがそびえる。凛とした雰囲気が漂い、東京都内とは思えないその風景に、撮影や写生に訪れる人も多いそう。蔵は創業以降、大正、昭和、平成と増築しているため、古い蔵の手入れは欠かさない一方で、機械化も進め、伝統と先端技術をミックスさせている点が特徴的。「丁寧に造って丁寧に売る」の家訓のもと、少量生産少量販売で営業を続けている。

創業1822年「田村酒造場」。蔵内部は機械化も進んでいる

敷地内の販売店には、入手が難しい限定品も揃う。契約店のみの純米吟醸「田むら」は、残念ながら蔵元でも販売していない。

田村酒造場の一本「特別本醸造 幻の酒 嘉泉」
酒造好適米を60%まで磨いており、吟醸酵母を使用した特別本醸造酒。旨みがありつつすっきりして飲みやすく、飲み飽きしない定番の一本。