過去5,6年の夏と比べると、今年は少しだけ涼しいようだ。でも夏は夏だ。日本の夏はじっとりと暑い。衣服が体にまとわりつく不快感は、気温がさほど上がらなくとも嫌なものだ。涼をとるのはアイスクリーム? スイカ?? それも悪くない。しかし、これを忘れるわけにはいかないだろう。大人の飲みものであるビールを!!

なんと呼べばいいのか、「普通のビール」

昨年の夏は不況を嘆く世相と、発泡酒・新ジャンル(第3のビール)がバリエーション豊かに出揃ったことも重なり、飲み比べ企画第一弾は「発泡酒・新ジャンル(第3のビール)」だった。そして第2弾は、サントリーの「プレミアムモルツ」に追随すべく、これまた次々と発売された「プレミアムビール」だった。その後、飲み比べ企画としては「800円以下の赤ワイン」「800円以下の白ワイン」と続いたわけだが、大切なものをまだやっていないことに気づく。

今回はビール13種を飲み比べ

それが今回飲み比べる"ビール"なのだが、はて、このビールたちをどう呼んでいいものか戸惑う。発泡酒・新ジャンル(第3のビール)、プレミアムビールとこれら後発隊の名前が定着してしまったら、祖であるビールはいったい何といえばいいのだろうか。「普通のビール」ではあまりにも失礼である。第一、これらのビールがなければ発泡酒もプレミアムも生まれなかったのだから。というわけでここからは、勝手に「スタンダードビール」と呼ばせていただくこととする。

さて、そのスタンダードビールの日本における定義について。プレミアムビールのときに少し触れた、1516年ドイツのバイエルン公が発した「ビール純粋令」(大麦・ホップ・水以外の原料を使用してはならないという内容)の定義は、今の日本の定義にも当てはまる。たった3種の原料だが、それらの種類や産地、配合の割合などで、味わいや香りなどが驚くほど違ったものになる。

さらに日本の定義には、「麦芽・ホップ・水のほかに麦その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの(当該政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の100分の50を超えないものに限る)」とある。つまり国で定められた米やコーン・スターチといった副原料であれば、50%以内なら使用してもいいわけだ。これによって味や風味に複雑味をもたすこともでき、「スタンダードビール」といっても様々な味わいやスタイルに仕上げることが可能となる。

今のように、発泡酒やプレミアムビールがなかった時代にビールを飲んできた世代の中には、「このブランド! 」と決めて頑なにそれしか飲まない諸先輩が多くいらっしゃることも承知しているが、たまには浮気も楽しいものだ。そんな浮気の参考になれば、ということで早速飲み比べてみよう。

試飲するソムリエ

小山田貴子
フリーライター・日本ソムリエ協会認定ソムリエ・「日本ワインを愛する会」編集長
イタリア留学中(遊学? )にワインに開眼し、帰国後ソムリエの資格を取得。2003年よりCSフーディーズTV(食の専門チャンネル)番組スタッフになり、現職に。ワインが専門ながらビールにも食指が動き、ベルギー(ブリュッセル・アントワープ)、ドイツ(デュッセルドルフ)、イギリス(ロンドン・エジンバラ・ブライトン)、アメリカ(サンフランシスコ・ポートランド・デンバー・ボウルダー・ハワイ)などのビール処を飲み歩いている。