前回、発泡酒24種類を飲み比べをした。今回は「エビス」や「プレミアム・モルツ」に代表されるプレミアムビールだ。発泡酒に比べると種類は少なくなるが、あれよあれよという間に各社から様々な種類が発売されていった。どれも味わいがプレミアムなら、価格もちょっとお高め。「普段は発泡酒(orビール)だけど、贅沢してたまにはプレミアムを……」なんて時の参考になるよう、ソムリエがプレミアムビール11種を徹底分析する。

今回試飲する11種類のプレミアムビール

試飲するソムリエ


小山田貴子
フリーライター・日本ソムリエ協会認定ソムリエ・「日本ワインを愛する会」編集長
イタリア留学中(遊学? )にワインに開眼し、帰国後ソムリエの資格を取得。2003年よりCSフーディーズTV(食の専門チャンネル)番組スタッフになり、現職に。ワインが専門ながらビールにも食指が動き、ベルギー(ブリュッセル・アントワープ)、ドイツ(デュッセルドルフ)、イギリス(ロンドン・エジンバラ・ブライトン)、アメリカ(サンフランシスコ・ポートランド・デンバー・ボウルダー・ハワイ)などのビール処を飲み歩いている。

各商品の解説に入る前に……。せっかく買うプレミアムビール、どうせならうんちくの1つや2つ、語れるようにしておきたいではないか。きっとそのほうが美味しく感じるはず! ということで、まずはプレミアムビールの歴史を簡単におさらいしておこう。

ビールは"純粋"なのだ

「大麦・ホップ・水以外の原料を使用してはならない」。

時のバイエルン公国ヴィルヘルム4世が、世にいう「ビール純粋令」を発したのは1516年のこと。以来500年近く、ドイツはこの法令を指針としてビールを造り続けている(厳密にはEU発足の際、非関税障壁になるとして1987年に効力を失っているが、多くの醸造所は今でも頑なに守り続けている)。そして現在の日本の法律で「ビール」と定義づけられているのも「麦芽・ホップ・水を原料として発酵させたもの」である(ただし、これらの原料以外でも、政令で定められている物品の使用は認められている)。つまり、日本のビールもドイツの「ビール純粋令」に、基本的には則ったものであるということだ。

う~む、ビール純粋令とはうまく付けたものだ。まじりけのないもの、そう、それが"純粋"なのである。しかしここ数年、そんな純粋なビールのさらに上をいく商品が日本のビール業界を躍進中である。それが「プレミアムビール」である。余計な原料は加えないが、その原料を品質アップしたり、製造工程で工夫したりと付加価値をプラスしたものがプレミアムビールなのだ。では、プレミアムビールはいったいどのようにして誕生したのだろうか。

日本のプレミアムビールの元祖とも言えるのが、サッポロビールの「エビスビール」だ。誕生は1890年(明治23年)。その後、1943年にはビールが配給品となり、ビールの全商標が世の中から一旦消え去ってしまう。しかし1971年、28年ぶりに復活を遂げる。麦芽100%と厳選されたアロマホップの使用を謳って付加価値をアピールし、他のビールと一線を画した(価格の面でも)。

「ザ・プレミアム・モルツ」の存在

だが、ビール業界に"プレミアム"というカテゴリが根付いたのは、紛れもなく2003年5月に誕生したサントリー「ザ・プレミアム・モルツ」がきっかけだといえる。欧州産アロマホップ100%を従来の2倍量使用や独自製法の採用で、"サントリー最高級ビール"という位置付けの商品である。

実はこの商品の前身は1989年に限られた飲食店でのみ販売されていた「モルツ スーパープレミアム」という商品。その後2001年には同じ商品名で一般にも発売されていたが、2003年にネーミング、パッケージを一新し、「ザ・プレミアム・モルツ」として誕生、新しい市場をつくりあげたのだ。

しかし、この頃にはすでに発泡酒がビールの売上を圧迫していた状況。しかもプレミアムビールは、通常のビールよりも販売価格が高い。当時の私は正直、「これは無茶だ」と思った。飲んでみたら確かに旨い。「旨いが、勝算はあるのか」と言われれば、それは疑問のままだった。

その疑問に対する答えは、ほどなく出た。お中元やお歳暮といった贈答アイテムとしての人気、さらにはモンドセレクション最高金賞受賞も後押しし、あっという間に世間に認知されることとなったのである。以降、キリンビールやアサヒビールもプレミアム分野に次々と商品を投入。現在では「発泡酒・新ジャンルとの2極化」といわれるまでになった。

「普段家で飲むのは発泡酒か新ジャンル」という方も多いと思うが、プレミアムビールは各社が誇る自信作。この際、「家族が多分、誕生日」「そういえば、結婚記念日」「今日は俺、頑張ったもん」などと言い訳をいっぱいつくって、様々なタイプのプレミアムを飲んでみることをオススメする。