動画共有サービス「ニコニコ動画(ββ)」を運営するドワンゴは、6月1日よりモバイル版生放送「ニコ生モバイル(仮)」をNTTドコモユーザー向けに提供(プレミアム会員のみ)を開始した。現在ではユーザー生放送にも対応し、同時視聴可能者数は3,000人にまで増加した。さらに8月3日からは、iモード公式メニューのマイメニューからの登録による月額課金に対応した。

ニコニコ動画モバイルはどんな展開を見せるのだろうか

急速に規模を拡大させているモバイル版ニコニコ動画の現状と今後の展望について、開発を担当する宮本卓氏、企画を担当する髙橋大樹氏、広報担当の佐藤亜貴子氏に話を伺った。

──これまで3キャリアで唯一月額課金できなかったNTTドコモですが、このタイミングで可能になった背景について教えてください。

佐藤 今までNTTドコモユーザー向けの決済手段としては、500円×3カ月分のチケット払いがありましたが、ユーザーにとってハードルの高い支払い手段でした。それが8月3日からマイメニュー登録の月額課金が可能になります。毎月500円ずつ支払えるようになるので、支払いのハードルはかなり下がると思います。ケータイユーザーは、着うたのダウンロードにマイメニュー課金を利用していますしね。

髙橋 3カ月分一気に支払うチケット払いだと、親がその支払い方法が使えるかどうかを選べたり、あるいは支払いが一度でも遅れるとチケット払いが利用できなくなるなど、色々な制限があるんです。それに比べるとマイメニュー課金なら購入しやすいですよね。中学生あたりですと、クレジットカードも持っていませんし。

ニコニコ事業本部 第二企画開発部 髙橋大樹氏

──現在、モバイル版生放送を閲覧できるのはNTTドコモ限定、さらにプレミアム会員のみですが、これには何か理由があるのでしょうか。

宮本 キャリア側の視聴制限の問題です。たとえば、ソフトバンクモバイルでは1回の連続再生時間は7分が限界で、その後は再アクセスが必要です。一度に通信できる時間がキャリア側から制限されているためなのですが、その状態で生放送を提供するのはちょっとどうかということで今は対応できていません。auに関しても手回し式(キャリア側の都合で数秒に1回キーを押す必要がある)のため、サービスに堪えられるかどうかがわからないのです。いずれにしても両キャリアにも対応したいとは思っています。こちらとしては技術的な準備はあるのですが、キャリア側の制限でできないというのは悲しいものがあります(苦笑)。

──では一般会員へのサービス提供については?

一般会員向けのお試し画面(サンプル)

髙橋 一般会員向けには8月3日から、3分間だけ見られる形での提供を考えています。「エヴァンゲリオンの活動限界」みたいな感じで(笑)。

宮本 そもそも「プレミアム会員限定にするなよ」という話かもしれませんが、ニコ生モバイルは本家よりも高コストなので、一般会員に開放すると赤字垂れ流しになってしまうのです。そこはご了承ください。

──モバイル版とPC版との立ち位置の違いは?

佐藤 本家のニコニコ動画を伸ばしていく中で、モバイル版の立ち位置は「プラットフォームを広げる」という役割を担うことにあります。たとえば、生放送は決まった時間にしか放送されないため、いつでもどこでも見られるモバイルは大きな強みになりますし、ニコニコ動画に接する機会を増やすことにもつながります。PCの前に座って見るのもいいですが、外で誰かとわいわい盛り上がりながらコメントを付けるのもありだと思っています。

髙橋 従来のPC版ユーザーはコアな人が多いと思います。一方で、ケータイやiPhoneなどのモバイル機器向けにサービスを提供して、もう少し一般的な、ITリテラシーがそう高くはないユーザーを取り込んで、新しい文化を創っていきたいですね。

──モバイル版とPC版ではユーザー層も異なるのでしょうか?

髙橋 モバイル版のユーザーはPC版よりも若くて、中高生が多いなという印象です。

佐藤 男女比も違いますね。PC版だと7:3ぐらいで男性が多いのですが、モバイルだと6:4ぐらいで女性のほうが多いんですよ。

髙橋 現在のユーザー生放送ではさほどコアなユーザー向けの番組ではなく、どちらかというと可愛い女の子やかっこいい男の子が出ていたりするものとか、料理の配信などの一般向けの内容が多いので、モバイル版ユーザーに向いていると思いますね。

──生放送といえば、最近では皆既日食の中継を行なっていましたよね。

佐藤 そうですね。ユーザーの入りもかなり良く、好評でした。来場者数は4万人、コメント数は13万を超えました。この生放送はモバイル版でも見られるようになっていたのですが、初めて同時接続で500人、累計だと1,700人を超えました。

──今後、こういった企画ではどんなものを考えていますか?

佐藤 生放送の企画として公表できるのは、現在サイトで告知しているものになります。あとはウェブライブとして、GACKTさんの生ライブ配信を行なうなどしているので、そのように使っていければと考えています。

宮本 ケータイで生放送を見るという点では、「ニコニコ大会議」などで、その場にいながら、さらに別の中継を見てもらうという使い方もできるかもしれません。または、放送主が移動しながら中継して、それをユーザーがケータイで見ながら追いかけつつコメントしていくとか。そんな"鬼ごっこ"的なものもやってみたいですね。

研究開発部 第四開発セクション ニコモバG 宮本卓氏

──実際に屋外から生放送している方はいるのでしょうか?

髙橋 けっこういますよ。自転車に積んだカメラで通勤風景を中継している人など。あとは以前、中継しながらドワンゴに突撃してきた人がいて(笑)、あのときは視聴者数がすごかったですね。モバイル生放送で何ができるのかは、色々と考えているところです。ユーザーにもアイデアがあればどんどん募集したいですね。

宮本 気軽に楽しめるという点で、PC版とは違う楽しみ方が発生していくと思っています。ユーザーが作る新しいメディアとして機能していくのではないでしょうか。

──将来的にはユーザーがケータイから生放送を配信できるようになるのでしょうか。

宮本 現在、SmileVideoにケータイから動画を投稿することは、「できなくはない」という路線で検討はしています。ケータイからの生放送は、撮影しながらの配信はまだケータイの技術的に難しいのですが、「できそうだ」という目処が立てば研究していきたいですね。ただそうなると、途切れやすい映像も出てくるなどノイズ的な動画も増えてくると思います。そこは課題になるでしょう。

──なるほど。他にモバイル版での今後の課題などはありますか?

髙橋 生放送に関して言うと、まだ対象ユーザーがすごく少ないので、これからどんどん増やしていかなければいけないと思っています。また、モバイル版では番組を検索できない、コミュニティに対応していないなど、目的の番組を探しづらいという問題があります。解決していかないといけませんね。

佐藤 それと、モバイル版では動画の削除基準(ケータイのみのフィルタリング)がかなり厳しいんです。"健全サイト"としての認定を受ける際に、グレーゾーンの動画も含めてフィルターの対象になってしまったので。そのせいでモバイル版のユーザーが減ってしまうということもありました。

髙橋 モバイル版のユーザーからは、「この動画が見られない」という苦情がよく届くんです。たとえば兄貴の動画とか……(笑)。それに、一律でフィルタをかけることで、誤って巻き込まれたりする(フィルタされてしまう)動画もあります。これも課題です。

──ビジネス面での数値目標などはありますか?

佐藤 目標は立てていないのですが、プレミアム会員の増加ペースが、20万人から30万人のときに比べて、30万人から40万人に到達するスピードはかなり早かったんです。50万人になるのはさらに早くなると考えています。PC版からではなく、いきなりモバイル版から入ってくる人もいて、(ニコニコ動画ビジネスにとって)ケータイでの課金は大きな原動力になっていますね。

PC版とモバイル版、本家と生放送──ますます広がりを見せるニコニコ動画が今後どんなカルチャーを生み出していくのか、これからも目が離せない。

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ニコモバちゃん(夏)