グラウンドの雰囲気はのんびり穏やかなもの。陽射しこそ強かったが、寝っころがって昼寝(朝寝?)する人、優雅に読書をする人、はしゃぐ子どもたち……と、これから世紀の大イベントを迎えるとは思えないゆるさだった。さすが南国である。

総合運動公園内の陸上競技場グラウンドが観測場所として開放された。真夏の南の島ゆえ陽射しはたしかに強烈で暑いけれど、高台なので風がある。向こうに海が見える中、芝生の上でのんびり寝ころがるには最高。参加者には日食観測用メガネとうちわが配られた

さすがに世紀の大イベント、望遠鏡やらカメラやらが据え付けられた巨大な三脚がそこかしこに並んでいる。僕もEOS Kiss X3(EOS 20Dにトラブルが生じたので直前で購入)にトキナーの望遠ズームレンズ「AT-X 840D」とケンコーのフィルター「PRO ND10000」を装着し、日食の時間を待った

マスコミのヘリコプターも会場の上空を旋回していた。ちなみにこの日、某新聞社の飛行機が奄美大島近海上空でコロナをきっちり目撃。雲があってもその上を飛べば見える、のは当たり前だが……一般人には難しいので、マスコミちょっとズルイと思った

やがて9時35分を迎える。第1接触、部分日食の開始時間だ。この辺りはまだ、太陽にはごく薄い雲がかかっている程度。カメラを向ければ少しずつ欠けてゆく太陽の姿を撮ることができた。

10時、食分0.32、つまり3分の1ほど欠ける。この頃から、薄かった雲が次第に厚くなり始めた。食分が0.50を超えた10時20分頃には、カメラを向けても太陽の形を捉えるのが難しくなる。時計は刻々と進む。人々は頭上の太陽がある位置と、そこに厚い雲を供給してくる南側の空を交互に見やって、ため息をついた。夏休みの自由研究のため息子に日食観察を促すお母さんの声と、それに応じてノートを広げる少年の姿が、重めに傾きがちな雰囲気をやわらげてくれた。

9時35分、第1接触。太陽の上側(天頂方向)から月が覆いかぶさり始める。この写真は5分後の9時40分の様子。薄い雲がかかっているが、日食メガネでも欠けたのがしっかり確認できた

さらにその6分後の9時46分には、もうここまで欠けた。日食メガネで見ていてもどんどんと食が進むのがわかるくらいだ。ただし……太陽の形をきちんと確認できたのはこの頃までだった

10時40分。食分が0.80を超え、周囲が薄暗くなり出した。この頃になると、太陽の姿は厚い雲の向こうで、もうまったく拝めない。人々の間にあきらめムードが漂う。やがて「皆既日食、5分前」のアナウンスがスピーカーから響き渡った。人々が一斉にざわめき立つ。「1分前!」。僕もカメラのレリーズを握り締めた。