そのほか、毎回完全に同じ場所から撮るための工夫も必要だ。公共の場所で撮影する場合、地面に目印を書き込むわけにはいかないので、三脚を立てる目印になるものを探す必要がある。しかし、自分では覚えているつもりでも、2回目の撮影に来たときには目印が何であったか忘れてしまっているかもしれない。小野寺さんは、このミスを防ぐための最も簡単な方法として、立てた三脚自体を携帯電話のカメラで撮影してしまうという方法を紹介した。携帯電話なら常に持ち歩いているので、撮影場所に着いてから前回の場所を忘れたことに気付いても、すぐに確認することができるからだ。

そのほかにも、三脚がない場合や、ファインダーのないコンパクトデジタルカメラでどのように前回と同じ写真を撮るかなど、定点観測のベテランである小野寺さんならではのさまざまなノウハウが紹介され、講座の後半では、参加者が自分のカメラを使って新タワーの写真を撮る実習も行われた。

会場から建設現場までは約800m。この日は曇天だったが、現場のクレーンは見ることができた(矢印部分)

撮影場所自体を別のカメラや携帯電話で撮影しておくのも有効だ

「建物の角や街灯など、目印を決めておくと毎回同じ構図を作れます。成長したり葉が落ちたりするので、樹木を目印にしてはいけません」(小野寺さん)

いかにモチベーションを保ち続けるか

隅田川河畔からパノラマ撮影した小野寺さんの作品。新タワーをサーチライトの光線で描く「光タワープロジェクト」が行われた日の撮影で、中央に光の筋が見える。このときの撮影が、新タワーの建設現場を撮るようになったきっかけだった

ただ、定点観測に必要となるのは、撮影テクニックよりもむしろ、これから新タワーの完成まで2年半にわたって撮り続ける根気かもしれない。小野寺さんは参加した人たちに「映画『ALWAYS 三丁目の夕日』で建設中の東京タワーが登場したが、皆さんの写真も将来あのような素晴らしい作品になる。地元の人々が撮る日々の建設現場の変化は、我々プロにも撮れない貴重な記録。墨田区に100年に一度あるかないかの大きな変化を後世に伝えるために撮ると考えると、より前向きな気持ちになれるのでは」と呼びかける。

また、撮影を続ける人たちのモチベーションの維持・向上をサポートするため、今回会場となった枕橋茶やでは、一般の人が撮影した新タワーの写真などを展示するスペースを店先に設ける。枕橋茶やの小林素子さんは「ここが定点観測を続ける人の交流の場になって、情報交換をしたり、撮影仲間を見つけたりしてくれれば嬉しい」と話す。ゆくゆくは、いろいろな人が持ち寄った新タワーの写真を合わせて、ひとつの新しい作品にするようなことも構想しているという。

この定点観測写真講座は、6月20日に第2回、7月18日に第3回の開催が決定している(雨天の場合翌日に順延)。参加費は1,000円で、定員制のため予約が必要。申し込み方法等の詳細は枕橋茶やのブログで案内されている。