TVアニメ『苺ましまろ』の松岡美羽役や『BLEACH』の朽木ルキア役でおなじみの声優・折笠富美子の4thアルバム「Serendipity(セレンディピティ)」が2009年3月25日にリリースされた。折笠自身に語ってもらった前編に続く今回は、プロデューサーの渡辺剛氏を交えての対談の模様をお伝えしよう。

3月25日に発売された折笠富美子の4thアルバム「Serendipity」のジャケットイメージ


折笠富美子×渡辺剛が語る4thアルバム「Serendipity」


――まず、おふたりの出会いについて教えてください
渡辺「もともと、いろんな人から『何でもできる人だよ』って噂は聞いていたんです。最初の仕事は『苺ましまろ』のOP(『いちごコンプリート』)なんですけど、そのときはレコーディングに立ち会えなくて、美羽のキャラソン『おさんぽ協奏曲』で初めてお会いしたときは衝撃的でしたね。とにかく表現力がすごいし、歌のテクニックもすごい、声も好きだな、って思って。まあ、そのときはまだ美羽の声だったんですけどね(笑)」
折笠「渡辺さんに初めてお会いしたときは、『本当に音を楽しんでらっしゃる方だなぁ』というのが第一印象でした。それから、アドリブでセリフを入れたりして、とにかくレコーディングが楽しかったのと、キャラクターソングのできあがりを聞いて驚かされて、リミックスでまた驚かされたのを覚えています」
渡辺「その前後に、折ちゃんの2枚目のアルバム(『Flower』)や、『苺』のED(『クラス・メイト』)を聴いて、『あ、こんな声を歌うんだ』って知って……。順番がふつうと逆なんですけど(笑)。それで、いつか『折笠富美子』個人名義のアルバムで呼んでもらえたらいいな、って思っていたんです」

――では、念願かなって今回のアルバムで組むことになったんですね
折笠「はい。その前に、3枚目のアルバム『うららかeasy』で、『おかっぱちゃん』という曲を作っていただいたり、『Sweetie』のリミックスをお願いしたりしていたので、そのときから私のアプローチは始まっていたんですけどね(笑)。そのころに、渡辺さんのライブも拝見したんですけど、なんだか音と音が会話してるみたいな空間で、すごく心地良かったんです。それで『渡辺さんの幅の広さって、どこからどこまでなんだろう?』って思って。それは、いまでもまだ謎なんですけどね。だから、私は素材として『料理してください!』って、自らまな板の上に乗ったような感じです(笑)」
渡辺「そういう折ちゃんも、ものすごく幅が広い人なんですよ。折ちゃんの出演作品をいろいろ観て『こんなにたくさん声が出るのに、それを活かさない手はないなぁ』って思って、それで『曲ごとにストーリーをかっちり作って、色んな"役"を演じてもらう』というコンセプトを提案したんです」

――実際の曲作りはどのように進められたんですか?
渡辺「まず、僕が作った曲を折ちゃんに提案して、折ちゃんが曲を聴いたときに浮かんだイメージを一言ずつ箇条書きしてもらって、そこから『これはどんな物語かな?』って話し合っていきました。たとえば1曲目の『Garden』は、"物語のはじまり"がキーワード。『いまからこのアルバムの中でいろんな旅をするんだよ』っていうことを表現しています」
折笠「まさにプロローグなんですよね。最初に聴いたときに、草原のイメージがわいて、『ひとり旅』って言葉を書いていました。そこからイメージをふくらませて、歌詞を書いていったんです」
渡辺「折ちゃんの歌詞を見たときは、言葉の選び方が僕とすごく似てるな、って思いましたね。僕は言葉がぜんぜん書けないけど、やっぱりこだわりはあって、僕の好きな世界観と共通していたんです」
折笠「それを聞いて安心しました(笑)。私も、渡辺さんの言葉へのこだわりをすごく感じたんですよ。やっぱり音を作っている方なので、音に対するこだわりはもちろんあると思うんですけど、予想以上に詞の世界や、曲全体の世界観も大切にしてくださって嬉しかったです」
渡辺「それは、この歳になってようやくそうなれた部分でもあるんです。やっぱり『歌』なので、『歌詞をどう表現するのか』がいちばん大切なんですよね。だから、それぞれの言葉がどういう意味を持つのか意識するようにしているし、歌詞を見てからアレンジや曲が変わっていくこともありました」

――歌のディレクションも渡辺さんがやられたんですよね
渡辺「はい。初めてだったんですけど『僕が全部やりたい』と申し出ました。最初にやったのは『ずっと、ずっと』だったんですけど、4、5回歌ってOKを出したら、折ちゃんが『もうちょっと力を抜いたら、もうちょっと良いものが出る』って言うんです。それで、もう1回やってみたら、その次のテイクがものすごく良くて。それから、歌録りの日が楽しみになりましたね。こちらが何か投げれば、それ以上のものを返してくれるので、『表現者としての折笠富美子』をものすごく感じることができました」
折笠「渡辺さんのディレクションは、曲を小さく分けるのではなくて、1曲を通して録ってくださるんですよ。だから、曲全体を通した流れがつかみやすくて、気持ちを言葉に乗せやすかったんです」

――他にレコーディング中のエピソードはありますか?
折笠「お誕生日を祝っていただきました!」
渡辺「ちょうど誕生日の直前にレコーディングだったので、みんなで食事をしたりケーキを食べたりしたんですよね。僕も12月生まれなので、お祝いっこした感じですね」
折笠「私、舞台があったので、稽古期間中に作詞作業はしていましたが、歌録りは少しお休みしてました」
渡辺「でも、そのおかげで製作上、面白いことが起こったんですよ。本来は、完成したバックトラックにのせて歌ってもらうんですけど、今回はまず僕が作った仮のオケに合わせて歌ってもらったんです。つまり、『最初に歌ありき』で、そこに肉付けするように楽器をのせてアレンジしていったんですよね。結果として、普通の方法よりも歌に合った音を作ることができました」
折笠「仮歌も私が歌いました。普通は別の方が歌っているのを本番で私が歌ったり、歌が入っていないオケを聴きながら家で練習することが多いんですけど、今回はお芝居みたいに、リハーサルというか『場当たり』みたいなものがあって(笑)。そのあとで家に持ち帰って、もう一度改めて流れを考えてみることができたのも良かったです」

――では、楽曲について詳しくお聞きします。「Lady Wendy」はどんなふうにできたんですか?
渡辺「まず『ジャズワルツっぽい曲は絶対に声に合うだろうな』って思って。『物語させる』というコンセプトもあったので、お姫様みたいな女の子がドレスを着て、舞踏会で踊っているような曲にしたんです」
折笠「私は演じることで"女の子像"を作り上げたい、という気持ちがあって、『ネバーランドから帰ってきたウェンディ』が浮かんだんです。女の子のほうが現実的だから、『大人になる』って決めるのも女の子だろうな、って」

――たしかに、男の子は「大人にさせられる」か「大人にならない」のどっちかですよね
渡辺「僕は後者ですね(笑)」
折笠「渡辺さんは、音楽を夢中でやってるときは少年なんです。寝癖も気にせず作っていらして(笑)。あ、今日は決まってますよ!」
渡辺「照れますね(笑)。でも、僕もこうしてアルバムで『折笠富美子』と対峙してみて、ものすごくピュアで素直な方で、なにより音楽作りが好きなんだなぁ、って思ったんですよ。たとえば歌のディレクションをしているときも、すぐ反応してくれるし、逆に『あ、これは僕が言ったことにあんまり納得してないのかな』って思いが声に出ていたり(笑)。とにかく、表現に対してものすごく真摯に取り組んでいらっしゃるんですよね」

――では「Promenade」は?
渡辺「仮タイトルは『ストーリー』で、物語やおとぎ話のストーリーを語っていくような曲にしようと思ったら、いつのまにかこんなふうになっちゃって(笑)。『これ歌えるのかなぁ』って思ったら、わりとサクッと歌ってくださって驚いたんですけど、そもそも、これに詞をつけてくれたこと自体がすごいですよね。最初は『RPGみたい』って言われました(笑)」
折笠「なんだか横スクロールのイメージがあって(笑)。もともとは『日曜日に散歩している曲を書こう』って思ったんですけど、いつのまにかこんな大冒険になりました。アルバム全曲に物語があるとちょっとお腹いっぱいになりすぎてしまうので、ニュートラルな私が垣間見える曲にしたかったんですけど、インパクトがあるメロディに『青い鳥』の描写を入れられたので、『物語』と『私』が良い具合にミックスできたんじゃないかな」

――「四月の風」は?
渡辺「最初のころにまとめて作った曲の1つで、『等身大の折ちゃん』を歌う曲なのかな、って思っていました。仮タイトルは『Wind』で、休日にウィンドーショッピングしながら歩いている、ってイメージ」
折笠「この曲は『おとぎ話』というよりも、新しい環境に入っていくときに、誰もが味わうような物語を、うらんさんにお願いして書いてもらいました」

――この季節に特に思いの込めやすい曲ですね。ラストの「Tomorrow」は?
渡辺「最後はとても良い曲になりました。歌入れも最後だったんですけど、『ようやくここまで来たのか』って、一瞬ウルッときました(笑)」
折笠「アルバムのなかで、この曲だけはプロセニアム(※舞台を区切る額縁)の外に向かっているんですよね。ほかの曲は『舞台の上』とか『画面の中』のイメージなんですけど、この曲だけは直接みなさんに語りかけたくて。『作者のあとがき』みたいな感じで、渡辺さんにもちょっとだけ詞をお手伝いしてもらいました」

――では、アルバムが完成したいまのお気持ちは?
折笠「とにかく、みなさんに早く届けたいです。私の歌に、どんどん奥行きのある音が重なって、曲が完成していくのが本当に嬉しくて。そんなふうに私が嬉しくて感動したことを、きっとみなさんにも届けることができると思います。いろんなテイストの曲が入っているアルバムなので、みなさんの『Serendipity』もきっと見つかるんじゃないかな」
渡辺「詞の世界も、歌も、音も、かなり凝ったつくりになっているので、誰にでも楽しんでもらえる作品になっていると思います。僕も、歌詞の世界にまで踏み込んで、ここまで全体的にプロデュースするのははじめてだったので、本当に充実もしていたし、それを折ちゃんとできたことは幸せでした。だからこそ『終わっちゃって寂しいな』って思いもあるんですけど……。でも、『早く次を作りたいな』って気持ちもあります」

――最後にお互いに一言!
折笠「本当にありがとうございました! これからもよろしくお願いします」
渡辺「はい。次も早く作りましょう(笑)」


タイトル Serendipity(セレンディピティ)
収録曲 01. Garden
02. PEANUTS MIND
03. Lady Wendy
04. 君の夢 僕の愛
05. ずっと、ずっと
06. Sentence
07. 晨星
08. Promenade
09. 四月の風
10. Tomorrow
折笠富美子
発売日 2009年3月25日 (発売中) 品番 GNCA-1216
価格 3,150円
発売元/販売元 ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント