動力性能の向上ぶりは前編でお分かりいただいたと思う。新型プリウスは新採用のエンジンを徹底的に高効率化しているのが特徴。2ZR-FXE型エンジンは、ベースになった2ZR系をプリウス専用に仕立てたものだ。FXEの型式からもわかるように、高膨張比サイクルであるアトキンソンサイクルを採用しているのは現行型と同じだ。

徹底した高効率エンジン

このエンジンには、さまざまな新たな燃費対策を施している。エンジン外観で特徴的なのは、普通はあるはずのベルトがないこと。通常はウオーターポンプやオルタネーター、エアコンコンプレッサーを回すベルトがあるが、新型にはベルトが一切ない。現行型も電動エアコンを使うためコンプレッサーを回す必要はなかったが、ウオーターポンプだけを回すためにベルトを使っていた。詳しい方は、すでに現行型で電動ウオーターポンプを使っていたはずと思っている人もいるだろうが、これはヒーター用のもの。新型プリウスはエンジン本体の冷却水の循環を電動ウオーターポンプ(トヨタ初)にやらせている。そのため最後まで残っていたベルト駆動のパーツがなくなり、ついにベルトレスになった。すでにBMWなどはエンジンマネージメントを高度化するため、電動ウオーターポンプを採用している。今後はこうした電動ポンプ化が加速するはずだ。

これでプリウスのエンジン外観は、回転部分を露出しなくなったと思いたいが、クランクシャフト部にはプーリーが残されている。そのためベルトはなくなったが、エンジンが回っているときにはむなしくプーリーも回り続けることになる。なぜプーリーを残したのかというと、クランクシャフトのダイナミックバランスやエンジン腰下の設計は、クランクシャフトプーリーを装着した状態で設計されているためだ。ベルトを回す必要がなくなったプーリーだが、2ZR系エンジンをベースにするため回転バランスを考えると取り去ることができなかったわけだ。しかし、ベルトがなくなったことでエンジン始動時の音やエンジンが回ったまま低速で走る場合、車外騒音がさらに静かになった。新型プリウスのチーフエンジニアである大塚明彦氏に、設計からの専用エンジンの開発について聞いてみたが、それはかなり可能性が低いという。トヨタは2010年代の早い時期にハイブリッドだけで年間100万台を販売する計画を立てている。だがこの規模でも、まだ設計からの専用エンジンはコストが高くなり難しいという。

新エンジンではクールEGRシステムも注目のメカだ。最新のコモンレールディーゼルには必要不可欠なクールEGRシステムだが、ハイブリッドは効率向上のために採用。電子制御のEGRバルブによってスロットルバルブ直後の負圧になっている吸気経路に排気を送り込むことでポンピングロスを減少させている。もちろん新型プリウスは、エスティマハイブリッドが先行採用した排気熱再循環システムも採用。これは排気として捨てていた熱エネルギーで冷却水を温めて暖機時間を短縮させるシステムだ。現行型プリウスは冬場にヒーターの熱源としてだけエンジンを始動させることがある。そのため燃費が落ち込みがちだったが、新型は排気熱まで利用するため冬季の燃費悪化は避けられそうだ。このほかローラーロッカーアームを採用してフリクションロスをなくすなど、こうした細かな高効率化が燃費向上につながっている。

エンジンは1.8Lに拡大され、4気筒の新世代ZR系にスイッチ。エンジンカバーを付けないのはコストダウンのためだという

インバーターのワイヤーに付けられている金属メッシュはノイズ対策用のもの。開発時にはこの金属メッシュを被覆する案もあったようだが、コストダウンのため露出させている

ECUのハーネスもコストダウンのために被覆していない。防塵性や耐候性はこれで十分に確保されているという

奥に見える丸い円盤がクランクプーリー。ベルトがエンジンルームのどこにもないのがわかるはずだ

パワーユニットは17kgから18kgほど重くなっているという

THS IIの心臓部がこれ。ユニットは大幅に小型化され、容積比で約20%ほど小さくなっているという。ちなみに新型プリウスでもキャンピングトレーラーなどのトーイングは日本はもちろん、欧米でもリコメンドしていない

素晴らしい燃費を実現、実燃費は確実に向上している

一般路を走ってみても新型エンジンのよさがよくわかる。エンジン音がとても静かなのだ。吸遮音材による効果も大きいが、エンジン自体から発生するノイズが確実に小さくなっている。バッテリー残量があればスタート時はモーターのみで走り出し、ゆるやかな加速なら36km/h前後でエンジンが始動するが注意していなければわからないほど静かだ。現行型プリウスもエンジン始動時のショックはうまく抑えられているが、新型はそれ以上にシームレスな感覚でエンジンが始動する。新採用のエコモードで走ると多少エンジンが始動するタイミングが遅くなるような気はするが、ノーマルモードとあまり差がない。違うのは加速時だ。徐々にアクセルを踏み込むとノーマルモードはアクセルとリンクしてエンジン回転を高めるが、エコモードはそれが少し遅い感じ。なるべくハイギヤードを維持して燃費を稼ぐのは、エスティマハイブリッドなどと同様の制御のようだ。

EVモードで走り出すとキャビンにはロードノイズが徐々に高まるだけで、高級車に負けない静粛性を得ている。これがフルハイブリッドのプリウスのよさであり特徴だ。アクセルを大きく踏み込むとEVモードが自動キャンセルされるのは現行型と同じ。ゆっくりアクセルを踏んでいけば60km/hまでEVモードのままで加速できる。平坦路ならEVモードの発進加速でも周りのクルマに遅れることはない。これらの制御は現行型プリウスと実によく似ているが、新型の制御はこれをベースにしているというから似ていて当たり前なのだ。違うのは回生ブレーキによるエネルギー回収の範囲。現行型は通常の減速では時速7km/hまで落ちるとメカニカルブレーキを作動させていたが、新型は5km/hまで回生させる。わずか2km/hの違いだが発進停止を繰り返す場面では、エネルギーの回収効率が違ってくることになる。

試乗では短い区間だがオンボードコンピューターによる燃費も計測してみた。通常モードで平均車速40km/hのとき燃費は26.3km/L。エコモードでは他車がいて停止時間が長くなってしまったため平均車速が36km/hに落ち、燃費も25.4km/Lに落ちてしまったが、一般道で25km/Lを軽々とオーバーするのは素晴らしい。このときシフトをBモードで回生量を増やすなどの特別な技は使っていない。普通に走ってこの燃費を叩き出すのだから、1.8Lになっても一般路燃費は1.5L以上の燃費を記録できる可能性が高い。カタログスペックはまだわからないが、この感じだと実燃費はかなり期待できそうだ。

現行型プリウスに乗っている身としては残念な点もある。それはインパネシフトとBモードボタンの不採用だ。インパネがオーリスなどと同じフライングバットタイプになったため、シフトも普通のクルマと同じ位置になってしまった。バイワイヤーのシフトだから、ハイブリッドらしくステアリングに組み込んでしまったほうがプリウスらしい。新型は目に見える部分の先進さにやや欠けるのだ。ステアリングスイッチに触るとメーター内にスイッチが浮かび上がるのは非常にユニークなアイデアで、ドライバーには先進さを感じさせるが同乗者にはわかりにくい。せめて低速域で回生量を増やすことができるシフトのBモードは、ステアリングスイッチで作動するようにしてほしかった。新型も減速時37km/h以下でBモードにシフトすると回生量が増えるようになっている。この制御は現行型と同じだが、市街地で頻繁に減速するときはやはりステアリングスイッチが欲しくなる。現行型で燃費を気にして乗っている方は同じことを思うはずだ。それとパワーモードやエコモード、EVモード選択スイッチの位置も気になる。シフトの前側に置かれているため操作しづらいため、見やすくて操作しやすいインパネ側に装着して欲しかった。

新採用パワーモードで加速を試すと、エンジン回転を速く高めると同時にモーターも強力にアシストする。現行型も結構気持ちいい加速だが、新型はそれ以上に速くて力強い。モーター出力が10kW高められているだけはある。ワインディングなどを走るときにはパワーモードでハンドリングを楽しめるまでに新型は成長した。エコや通常モードと同じコースを走って燃費を計測。パワフルな走りを味わったため平均車速が43km/hに上がってしまったが、燃費は21.3km/Lを記録。たまにストレス解消でワインディングロードでの走りを楽しんでも、燃費が大幅に悪化することはなさそうだ。ただし気になる点もある。EVモードでも感じたことだが、パワーモードでも電池の減りがやや早いように感じる。これはモーター出力が向上したのに対し、バッテリー容量が従来と同じだからかもしれない。システム電圧を500Vから650Vに高めて高効率化しているが、ニッケル水素のバッテリーそのものの容量は大きくはなっていない。もう少しロングレンジを乗ってみないとわからないが、あまり走りを楽しむとバッテリー残量が今までより早く少なくなる可能性もある。

新型プリウスはミリ波レーダーも搭載。ブレーキ制御付きのレーダークルーズコントロールとプリクラッシュセーフティシステムを採用し、高級車並みの快適性と安全性を手に入れている。燃費と走行性能を向上させ、高級車に迫る装備を身に付けたことで、新型プリウスはより魅力的な存在になった。

前編はこちら

これがクールEGRシステム。ポンピングロスを減らす効果もある

これが電動ウオーターポンプ。トヨタでは初採用のメカだ

駆動用バッテリーも小型化された。期待されたリチウムイオンではなく従来と同じニッケル水素バッテリーだ。リチウムイオン仕様は、今年末に発売されるプラグインハイブリッドまで待つことになりそうだ

冷却やセルのクリアランスを見直すことで小型化している

インバーターも小型化された

これも冷却などを見直すことでサイズを小さくすることができた

新型プリウスのチーフエンジニアは、トヨタ第2乗用車センターの大塚明彦氏

プロトタイプの試乗会だったが用品装着車も展示されていた。フロントグリルにはメッキモールが付けられ、エアロパーツも装着。コーナーポールも用品設定されるようだ

リヤにもメッキモールやパンパプロテクターを付けることができる

経済対策でハイブリッドなどのエコカーは、4月登録から自動車取得税と重量税(3年)が免除される。もちろんプリウスも対象車だ

オプションでフライングバット部分をボックスにすることもできる。フタはスライド式

燃費グレードは従来と同じ185/65R15サイズで、グッドイヤーのGT3など装着するようだが、ワンサイズ太い195/65R15も用意されるようだ。これも低転がり抵抗のエコタイヤでブリヂストンのエコピアEP25が装着されていた。アルミホイールは20型と同じく、空力特性を改善するための樹脂カバーが装着されている

この車両は本革シートの仕様だった。装備を満載した上級グレードが設定されるのかもしれない。革は小さな通気口があけられているタイプで滑りにくく、運転しやすかった

リヤの居住性は20型とほぼ同じだ。なぜかセンターアームレストも20型と同じく前下がり

足元のスペースやセンタートンネルの高さなども20型ほぼ同じ

これがフライングバットのデザイン。下はトレイ状になっているため小物を置くことが可能

本革シートはヒーター付きで、温度調節のボタンはなくオンオフのみのようだ。左側の丸いのは電源ソケット

ETCはビルトインタイプを設定。ステアリングポストの右下にセットされる

本革仕様はコンソールボックスのフタまで本革が貼られるが、ノーマルは硬い樹脂のフタのままなので質感が今一歩

インパネのシボは独特の波型で美しく見える

20型と同じく助手席側のボックスは上下二段タイプ。20型はアッパー側のフタが壊れることがあったが、新型は問題なさそうだ

ラゲッジスペースも20型とほぼ同じだ

リヤシートは6対4の分割可倒式のためワゴン的に使うことも可能

アンダーボックスも踏襲するが、右奥が出っ張っている。これは駆動用バッテリーのコネクター部分が下にあるためだ

アンダーボックスのトレイを外すと駆動用バッテリーとパンク修理キットが現れる。バッテリー容量は20型とほぼ同じ(25kWから27kWになった)だが、サイズなどは小さくなった

アンダートレイが四角でないのは、このコネクターとバッテリーを冷却した風を排出するパイプがあるため

静粛性が一段と高められて、とくに下周りからの音がよく遮音されている

コーナリングでは徐々にロールが進行し、ロール剛性も高められている

リヤのトレッドが40mm拡大されているため、見た目の安定感も増した

一般道を想定した外周路での走行では、ノーマルとエコモードで25km/L以上の燃費を記録した

15インチタイヤの仕様でも結構スポーティに走ることができる

ノーズの動きは意外に軽く、軽快な走りだ

こうしてリヤを見ると空力を追求したデザインであることがよくわかる