バード・ストライク対策を強化

「ハドソン川の奇跡」と呼ばれた、今年1月15日に起きた米国USエアウェイズ機の不時着騒ぎ。ニューヨーク・ラガーディア空港を離陸した同機は数分後、両翼のエンジンが機能を停止。マンハッタンの西側を流れるハドソン川に緊急着水した。原因は機体が鳥に衝突した「バード・ストライク」。同機は飛び立ってすぐに鳥(カナダガン)の群れに遭遇し、鳥を吸い込んでエンジンが推進力を失ったとされる。

不時着したUSエアウェイズ機と同じ双発機のエアバスA320

日本の国土交通省でも同21日、全国の空港管理者に向けて鳥の衝突防止対策のさらなる徹底を図るよう注意を喚起。また、航空会社にも、鳥防止見張り業務の徹底や鳥の群れを発見するなど航行の安全に障害を与える恐れがある場合に管制官などに伝えるよう要請した。

ただし、航空機へのバード・ストライクは、一朝一夕に解決できるような問題ではない。全日本空輸(ANA)の資料『航空事故ダイジェスト Part.1 TAKE OFF』によると、ジェット旅客機の大衆化がはじまった当初の1960年、ボストンでイースタン航空機が今回と同じ離陸時にムクドリの群れに突っ込みエンジンが大きなダメージを受けて海中に落下する事故を起こしている。ここ数年をみても、バード・ストライクは年間1,000件以上(国土交通省調)で推移。根本的な解決策は見つかっておらず、パトロールや空砲など音による威嚇などで防止に努めているのが現状だ。鳥の群れが発生しやすい海上空港は増加傾向にあり、「今後、バード・ストライクへの対策をさらに強化していく(ANA広報室)」ことが求められる。

経済的でエコな双発機

ところで、今回、不時着した機材は、バードストライクにより両翼のエンジンが推進力を失った。こういうケースは非常に稀だそうだが、同機エアバスA320は片翼に1基ずつのエンジンを装備した双発機。もし、4発機であれば不時着することはなかっただろうか。

近年、旅客機は2発機が主流になった。その理由のひとつは経済効率。4発機は離陸時に強いパワーを発揮するが、上空に上がってしまえば過剰装備となる。一方、双発機は離陸時のパワーは4発機より落ちるが上空に上がってからの経済性に優れる。よって、航空会社は双発機を好んで使用するようになった。象徴的なのが1995年にユナイテッド航空が初就航し、その後ベストセラー機となったボーイング777型機(トルブルセブン)だ。 同機は双発機ながら4発機のジャンボ(ボーイング747型)を上回る主翼幅と全長を持ち、胴体を延長したタイプの777-300型は最大550席もの座席を設置できる。かつて羽田-福岡や札幌といった国内幹線ではジャンボ機が数多く使われていたが、今ではボーイング777や767といった双発機が主流だ。国際線でも4発機はジャンボ機とエアバスA340、総2階建てで話題になっているA380くらいのものである。

片翼に2基ずつのエンジンを装備した4発のA380

もうひとつ双発機が好んで使われるのは、エコロジーの問題があるからだ。ANAの資料によれば、東京-札幌間の1座席当たりのCO2排出量を比較すると、双発機の777-300のCO2排出量は4発機のジャンボ機B747-100より約20%も削減されている(2007年データ)。地球環境の問題が指摘される昨今、自社のイメージを損なわないようCO2排出量を抑えた機材を使いたがる航空会社が多いのは無理もない。もちろん、ジェット機が飛び始めた頃に比べるとエンジンの完成度は格段に違っており、その技術は比較的に進歩している。

「ハドソン川の奇跡」を起こしたパイロットには称賛を送りたいが、一方で今回の不時着は、安全、環境、経済性などが複雑に絡み合った航空界の現状を見せてくれた。今後の航空界の姿勢に注目したい。