11月30日に放送されるドキュメンタリー『ETV特集 新しい文化「フィギュア」の出現 ~プラモデルから美少女へ~』(NHK教育 22:00~)の記者会見がこのほど、東京・渋谷の同局で行われた。同番組はプロ・アマを交える形で現在まで独特の発展を遂げてきたフィギュアの世界に焦点を当て、原型師・BOME(以下、ボーメ)氏の仕事に密着しながら、日本独自の新たな工芸文化としてその実態に迫るものだ。

往時より『ミンキーモモ』、『セーラームーン』といった美少女フィギュアを作り続けてきたボーメ氏。言葉で多くを語らない反面、その手業には圧倒的な説得力がある

フィギュアという立体造形の文化が日本で勃興してから約4半世紀。その人気はいまや海外へと広がり、近年では現代アートの世界からも熱い注目を集めている。現代アーティスト・村上隆がデザインした作品の原型を手がけ、その卓越した技術で数多くの作品を手がけてきたのがフィギュアメーカー・海洋堂に所属する原型師・ボーメ。番組ではボーメ氏の制作現場にカメラを入れて、美少女フィギュアの制作工程を追う。またフィギュアの祭典「ワンダーフェスティバル」の立ち上げに関わった作家の岡田斗司夫氏を聞き手に、フィギュア文化に関心をもつ民俗学、解剖学といった分野の識者とのクロストークも実施。様々な角度からフィギュアの持つ魅力に迫る。

PCゲーム『神曲奏界ポリフォニカ』より「コーティカルテ・アパ・ラグランジェス」。番組ではボーメ氏が約4ヶ月をかけて制作したこのフィギュアの制作過程を追う

放送に先立ち山登義明プロデューサーは「誤解を招くといけないんですが、私も一番最初は『なぜこんなものにいい大人が魅かれるんだろう?』と思ってたんです。ところが自分がフィギュアと向き合うと、たかが人形で済まなくなるところがある。人間が描いた目が活き活きし始める瞬間があるんですね」とフィギュアへの疑問が制作のきっかけだったと語り、「この文化はまだ動いている最中なので、我々は勇気を持って先につかんでみたという感じです。だいたいETV特集というのは40代以降が中心なので、まずは団塊の世代に『いまの若い連中もなかなか面白いことをやってるよ』と言いたいなと思いますし、2ちゃんねるなんかにスレッドが立つんじゃないかなと思ってます(笑)」と意気込みを語った。

先日渋谷パルコで開催されたボーメ氏の個展の模様も。東京では終了したが、名古屋パルコのパルコギャラリーでは12月1日まで開催中なので、この機会に足を運んでみてほしい

長期間に渡って現場取材を行った下村幸子ディレクター。「自分もだんだんフィギュアにハマってもういまでは机の上に並んでいるほどです(笑)」

また、下村幸子ディレクターは「今回一番現場に詰めていて感動したのは、ひたすら美少女フィギュアに向き合っていくボーメさんの姿でした。自分にとってオタクカルチャーというのは一番遠いところの文化で、最初は不安も感じたんですが、どこの世界もやっぱりこだわりの部分では同じで、そこに萌えというか恋をしていく。私自身も番組を自分の子供のように思うので、同じ世界なんだなと感じました。オタクの人たちだけじゃなく、より多くの人に見ていただければと思います」とPRした。

番組の最大の見どころは、やはりボーメ氏の職人芸。インタビューや村上隆氏とのトークを挟みつつも、一連の制作工程をじっくり見せる構成となっており、一級の映像資料となっている。その一方で識者とのクロストークに代表される、文化論としてのアプローチについては、まだ手探りの要素が強いと感じた。このことは、キャラクター商品であり同時に芸術的な要素も兼ね備えるフィギュアのとらえどころの難しさを象徴していると言えるだろう。

総合的には、これまでテレビでは表層的な紹介に留まりがちだったフィギュアの世界に対して、真正面から取り組んだものとなっている。フィギュアが身近な人にとっては永久保存版であると同時に「フィギュアのどこがいいのかさっぱりわからん!」とお嘆きの人にとっても発見の多い充実した番組だ。