デンマークを代表する画家であるヴィルヘルム・ハンマースホイ(1864-1916)は、生前高い評価を得ていたものの没後急速に忘れ去られ、近年になって再び脚光を浴びている。1997-98年のオルセー美術館とグッゲンハイム美術館で大規模な回顧展を開催、2003年には、ハンブルク美術館で開催されたハンマースホイ展は同館開館以来最大の入場者数を記録するなど、一度は忘れ去られた北欧の画家がいま、世界中から注目を集めている。
17世紀オランダ絵画に強い影響を受けたハンマースホイは、多くの特徴的な室内画を残している。灰色がかった色調で描かれた最小限の家具に、がらんととした空間。そこへやわらかな光が差し込み、絵を見ていると自分が部屋の中にいるかのような心地よい錯覚に包まれる。ハンマースホイの室内画のほとんどが、自宅の部屋を描いたものだが、彼は実際の部屋そのままを描くことはなかったという。綿密に構成された空間描写が、見る者をまるで部屋の片隅から内部を覗き込んでいるような気分にさせ、部屋に招かれたわけでもなく、拒絶されているわけでもない、得体のしれない距離感に引き込まれていく。
室内画には、ハンマースホイの妻イーダがたびたび登場するが、イーダの顔を描いた作品は少なく、そのほとんどが室内画の中の後ろ姿で描かれている。顔を向けることのないイーダは、こちら側からは決して見ることのできない絵の中で、普段どおりの生活を送っているのだろうか。ここでもまた、背を向けたイーダに、招かれたわけでないが部屋に入ることを許されている、そんな奇妙な気分にさせられる。会場には、ハンマースホイが描いた室内画を立体で見ることができるCGが展示されているのも興味深い。
今回は、日本初のハンマースホイの大規模な回顧展となっており、風景画、室内画、肖像画など様々な作品をあますことなく展示、ハンマースホイのつくりだす音のない静謐な世界を堪能できる。この展覧会では、ハンマースホイ作品のほかに、同時代に活躍したデンマークの画家ピーダ・イルステズとカール・ホルスーウの作品も出品されている。また会期中、展覧会に関連した講演会やスライドトークなどのイベントも開催される。
田辺 欧(大阪大学世界言語研究センター准教授)講演会「19世紀末デンマーク、黒衣の女性が語るもの」
11月22日(土)14:00-15:30
スライドトーク
11月21日(金) 18:00から約40分
解説:佐藤直樹(国立西洋美術館主任研究員)/萬屋健司(大阪大学大学院)
会場 | 国立西洋美術館 〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7 |
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鑑賞料 | 当日券 一般1,500円、大学生1,100円、高校生700円 |
会期 | 2008年12月7日(日)まで |
休室日 | 月曜日(ただし、11月24日は開館、11月25日(火)は休館) |
開室時間 | 9:30~17:30(金曜日は20:00)※入館は閉館の30分前まで |
アクセス | JR上野駅下車(公園口出口)徒歩1分、京成電鉄京成上野駅下車 徒歩7分、東京メトロ銀座線、日比谷線上野駅下車 徒歩8分 |
主催 | 国立西洋美術館、日本経済新聞社、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ |
後援 | 文化庁、デンマーク大使館 |