――この映画では、ホームレス生活のエピソードよりも、ホームレスから脱出した後の主人公の苦悩のほうが、より深く描かれていますね
古厩「原作を読んだ時に、草を食べるとか、ダンボールを食べるとか、うんちの話とか……確かに笑えたけど、一番面白かったのは、生きる意味がまったくわからなくなってしまったという部分だったんですね。やっぱり、生きるのに意味なんかないんですよ。でも、それを学校の先生なんかが言い切ってしまうと、怒られるし成立しなくなるわけです。でも『ホームレス中学生』では、それを言い切ってしまっているような気がしたんです。"こういう小さい繋がりがあるから生きていけるんだよ"とか、"生きる価値があるんだよ"とかも語られているような気がしたんです」
――たむちんを助ける大阪の人々が本当に温かいですよね
古厩「僕も大阪の人々は大好きです。でも、『ホームレス中学生』に描かれている人情は大阪に限定されているものではないと思うんです。1カ月公園で暮らしてる彼を、誰も助けなかったわけですから……。これは、日本全国、何処でも起こりうる話で、1カ月公園で暮らしてる少年に声を掛けないのも現実だし、その後、色々な人が助けてくれるのも現実なんです。だから、この映画の舞台が団地であるということがとても重要だったんです。あれだけ、何千人もの人が住んでいる団地でホームレスになってしまう。そして自分を見捨てていた人々に助けてもらう。この二律背反をやるには、団地というのが重要でした」
――たむちん役の小池さんは現在22歳で、中学生を演じていますね。
古厩「映画を観ていて違和感がなければ、それはいいと思います。小池君にしたのは、原作の田村さんからの熱烈な希望ですね。田村さんには、自分が小池君のように見えているんです(笑)。あとは、そこからの逆算で、池脇さんと西野さんも決まりました。彼らも実年齢よりかなり年下の役ということで、演じるには不安だったと思います。3人が常に現場でカメラが回っていなくても、本物の兄弟のようになろうとしていたのが、印象的でした」
――この映画をどんな風に楽しんでほしいですか?
古厩「皆さんが観たいであろうホームレス生活の小ネタは満載です(笑)。それ以上に僕らが生きていくうえで本当に欲しいものを、本当に小さい形ですが描いたので観て欲しいですね。『何で生きていかなければならないのか?』という疑問に、小さな声で答えることが出来ている作品です。主人公がほんの少しだけ成長する。そこも観て欲しいですね」
――古厩監督は『さよならみどりちゃん』(2005年)、『奈緒子』(2008年)、『ホームレス中学生』など、原作モノを監督することが多いという印象があります
古厩「たまにはオリジナルもやりたいですね。単純に何処でも見たことのないオリジナル作品は必要ですから。ただ、原作モノでもオリジナルでも監督するのは違和感ないです」
――オリジナル作品の構想などはあるのですか?
古厩「僕は田舎が好きなんでね。また、そろそろ田舎を舞台に映画を撮りたいと思っています。僕は作家じゃなくて、映画監督でありたい。人を感動させるのは、映画の中で語られる物語ではなく、映画そのものだと思ってるんです。カットの連なりだとか、このカットの次に、この人の笑顔が来てそれで泣けたとか……。そういう映画そのものの力こそが人を感動させると思うので、どんな物語でも語っていきたいとは思ってるんですが、それでも描ききれないものはあって、そのときに自分の物語というものを持つことも必要だと思います。だから、オリジナルも原作モノも両方やっていければいいと思ってます」
――次回作のご予定は?
古厩「また若い人の映画を1本撮影する予定です。また原作モノなんですが(笑)」
古厩智之 プロフィール
1968年生まれ、長野県出身。日本大学藝術学部卒。
1992年『灼熱のドッジボール』でPFFグランプリ受賞。『この窓は君のもの』(1995年)で長編デビュー。他の監督作品に『まぶだち』(2001年)、『ロボコン』(2003年)、『さよならみどりちゃん』(2005年)、『奈緒子』(2008年)、『ホームレス中学生』(2008年)などがある。『ケータイ刑事 銭形愛』シリーズ(2002年~ BS-i)など、テレビドラマの演出も多数手がける
(C)2008「ホームレス中学生」製作委員会
インタビュー撮影:糠野伸