オリジナル作品を監督したい気持ちもある

これからの松岡監督はどんな映画を作っていくのだろうか? 彼は慎重な口調で、これまでの自分を語ってくれた。

松岡「確かに僕には、『原作モノが多い監督』というイメージがあると思います。ただ、監督デビュー前の時代、僕はすべてオリジナル作品を撮っていたんです。原作に頼らずというか、もともと自主映画の人間たちっていうのは、企画を探すのではなくて、何かを撮りたいという情熱から始まって映画を作り始めるんです。僕自身がそれを、やり続けて、1980年代の中盤あたりで煮詰まったんです。原作を映画にするという感覚すら持ち合わせていない若造は、そこで挫折感を覚えた(笑)。そんな僕のところに監督デビューのチャンスが転がり込んだときに、自分の中で吹っ切った部分があるんです。プロフェッショナルの監督として活動するということは、自分探しのようなものから離れて、客観的な素材をベースに映画を撮るというのが、必要ではないかと思ったんです。それまでの自分を、僕はデビューの時に一回棚に置いたんですよ」

「客観的な素材=原作」を題材に、名作を多数作ってきた監督は、日本映画界の現状にまで言及した。

松岡「そんな僕も『オリジナルをやりたい』と言って、完全オリジナルで脚本を書いたこともあるんです。だけど、僕が現在やっていることの予算を含めた映画製作のフォーマットでは、なかなか難しい。低予算にして、デジカメで撮影してやるとかなら、好きな事をやれますけど。みんな、『原作がこの本で、出演者がこの人だと、興行収入いくら狙えて、DVDの売り上げ本数はこれくらいだ』とか、そういう計算をしながら映画を作るんです。ビジネスの世界では……。本当はそれらから全部離れて、オリジナルを、もっとやるべきだと思います。これは今の日本映画界が抱えているテーマだと思いますよ」

現状を正直に語る松岡監督。彼はこの日本映画界でどんな方向に向かうのだろうか?

松岡「僕は日本アカデミー賞の最優秀監督賞を獲りましたが、企画書が色々な所から、来るとかは、全然ないんですよ(笑)。あまりに暇すぎて、こないだなんか、ママさんバレーとかやりましたよ(笑)。でも、自分の中でそういう日常っていうのは大切なんです。あまり『企画、企画』と言って、いつも『この原作をどういうスパイスで料理すればいいんだろうか?』って方法ばかり考えていると、それはそれで、貧困になると思うんですよね。だから世の中に、観客に向かって何かを出すっていうことを考えるという意味では、若干時間を使ってやるのが正しいことだと思うんです」

穏やかでゆっくりとした日常を大切にしつつ、プロフェッナルの監督として世の中に何を放つべきかを、松岡監督は考え続けている。そんな印象を強く受けた。

歓喜の歌

小さな町にあるみたま文化会館。ここに勤務するお調子者の飯塚主任(小林薫)と部下の加藤(伊藤淳史)は、12月30日にとんでもない事態に直面する。明日の大晦日の文化会館に、ふたつのママさんコーラスグループをダブルブッキングしてしまったのだ。会場の使用権を主張するふたつのコーラスグループの間で、飯塚主任は奔走するのだが……。
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(C)2008「歓喜の歌」パートナーズ

インタビュー撮影:中村浩二