-- 現在レースなどへのスポンサー活動はされていますか?
頂点はF1ですね。トヨタのF1チームには最初から協力しており、もう6年になります。国内ですとフォーミュラニッポン(Formula Nippon)、SUPER GT、カート(Cart)。海外ですとWRC(世界ラリー選手権)とPWRC(プロダクションカー世界ラリー選手権)などが大きなところです。最近二輪が少し少なくなってきていますが、国内で人気のあるモータースポーツには、一応影ながらご協力しています。
最初、ブランディングの1つとして、マクラーレンに工具を送ったところ、マクラーレンからOKが出たんです。ただ、そのOKが出るか出ないかというところでトヨタの参戦が決まったわけです。うちは創業時からトヨタと関係がありましたので、「これはトヨタに行かなくちゃいけないだろ」と、急いでトヨタに工具を持っていって話をしました。ダメだったらマクラーレンにしようと思ってたんですが、トヨタにOKをいただいたので協力関係が始まったんですね。
-- 両方スポンサードするという選択肢はなかったんですか?
モータースポーツについては、基本的に商品を提供するという契約しかしてないんです。よくスポンサー契約というとお金の話になりがちですが、うちはお金のかわりに工具を提供させていただく。ですが、それがF1ともなると、工具の量だけでハンパじゃないんですよ。ピットの中だけならそれほどでもありませんが、ワークショップであるとか、スペアなどを含めると、毎年何万点もの工具になります。F1で使われるネジは小さいものが中心で、大物はそんなにないです。ただ、1アイテムで50~100個というのが当たり前の世界なんですね。一気には出荷できなくて、2~3カ月に分けて送っています。
-- 工具はF1仕様の特別なものなのでしょうか?
よく聞かれますけど、うちの工具はF1仕様にはしていません。たまに「トヨタのF1に出してる工具はカタログには載ってないんですか?」という質問もありますが、同じですね。F1チームに普通のカタログをそのまま送って、その中から選んでいただいてますから。F1で使われているものも、日本でプロのメカニックに使っていただいているものも、DIYでいじっていただいているものも、まったく同じ商品です。
ひたすら作り直す工具の開発
-- 工具はどうやって開発されていくんですか?
営業からは、常時こういう新製品が欲しいという情報が上がってきます。それをフィルターにかけながら今持っている開発のネタと合わせて、どれをいつ出したらいいというのを判断しています。いけるということになったら、まず試作品を作ります。それでモニターさんがいらっしゃいますので、1~2カ月使っていただいて意見をお聞きします。それをフィードバックしてまた作り直して、また使ってもらってまた作り直して、ということを繰り返します。それで納得がいけば実際の製作ステップに進みます。
でも、試作は進めたものの、市場のニーズは今じゃないっていうこともあります。そういうときは進めてるものを止めて、タイミングを見て復活させるというケースもあります。中途半端に終わってるものもいっぱいありますよ。クルマの環境というのは、特に最近は急激に変化しますから、工具もむずかしいのが実際です。
-- クルマ環境の変化というと?
たとえば、最近のクルマではインテリジェンス化が進んでセンサー類がかなり増えています。いろいろと電子制御が入ってますので、コネクタですとか、電気の診断というのが必要になってきます。ハイブリッドではエンジンだけではなくて、バッテリーやモーターが追加されますよね。するとそれらに対して、必要な工具が発生するわけです。
すぐ実現するとは思いませんが、将来的にタイヤに空気を入れなくてもいいようになれば、パンクもなくなりますよね。タイヤの摩耗がなくなればホイールを外す工具はいらないですよね。逆にタイヤに変わる駆動方法があれば、それに対しての工具が発生します。そういったことの繰り返しです。といっても、これは比較的特殊な工具ですから、一般ユーザーが使うスパナ、メガネ、ボックス(ソケット)の重要性は、まだしばらく変わらないと思います。
聞き手・撮影:平 雅彦 (WINDY Co.)