昨年の「男鹿和雄展」展に続き、東京都現代美術館は今年もジブリ

映画『ハウルの動く城』の公開以来、4年ぶりとなる宮崎駿監督の最新作『崖の上のポニョ』が19日公開後の3日間で、動員125万人、興収15億7,582万円の興行成績を記録する好調なスタートを切った。この公開から一週間後の26日、『高畑・宮崎アニメの秘密がわかる。スタジオジブリ・レイアウト展』が東京都江東区の東京都現代美術館ではじまった。会期は9月28日まで。

本展ではスタジオジブリ、三鷹の森ジブリ美術館の全面協力により、『風の谷のナウシカ』から最新作『崖の上のポニョ』までの宮崎監督直筆のレイアウトを中心に、高畑・宮崎両監督がジブリ以前に手掛けた作品も加えた、レイアウト約1,300点を一挙に公開するというもの。同館では、昨年夏に「ジブリの絵職人 男鹿和雄展」展を開催し、同館最高の動員である29万人にもの入場者数を記録しており、映画同様、本展も夏休みの目玉として相当の動員が期待されている。

会期は9月28日まで。チケットはローソンのみでの扱いになるので要注意

アニメの設計図「レイアウト」とは?

本展のテーマとなるレイアウトとは通常、紙の上でデザインする上でのパーツの配置を決める、読んで字のごとく「画面構成」の事をいうわけだが、アニメーションでいうところのこれは若干、異なる。アニメーションにおけるレイアウトは、一枚の紙に背景とキャラクターの位置関係や動き、つまりお芝居の指示やカメラの動きやスピード、撮影処理といった、そのカットで表現される全てが描かれた「設計図」とも言えるものだ。

「風の谷のナウシカ」(c)1984 二馬力・GH

「風の谷のナウシカ」(c)1984 二馬力・GH。「Follow BG 1K/10ミリ 48cm ←」の指示が見える

実写も含め、映画における設計図と言えば、絵コンテがその役割を果たしているが、分業化が進んだアニメーション制作の場合、絵コンテは映画全体の「設計図」であり、レイアウトは完成画面を想定して緻密に描かれたそのカットの「設計図」と言える、実践的な部分を大いに含んだ、完成映像のシミュレーションと言ってよいだろう。そして、レイアウトシステムとはこのレイアウトを基本に映画を制作する方法の事を指す。

「ハウルの動く城」(c)2004 二馬力・GNDDDT

あちこちにこんなかわいいサインが

実はこのレイアウトの工程をシステムとして本格的に導入したのは、1974年にズイヨー映像(現・瑞鷹)が制作した『アルプスの少女ハイジ』と言われている。同作では高畑監督が演出を担当し、宮崎監督は場面設定・画面構成の担当として、全話のほぼ全カットにわたってレイアウトを描いている。それまでレイアウトそのものは存在していたが、同作のようにレイアウトをシステムとして活用する事で、週一という放送枠により限られた作業の効率が改善されるだけでなく、演出家の意図を完成画面に反映させ、作品全体のクオリティコントロールを実現したのは、同作がはじめてと言える画期的な手法だった。

「となりのトトロ」(c)1988 二馬力・G迷子になったメイを探して、頼ってきたさつきを抱えてトトロを木のてっぺんに飛び出した瞬間。トトロとさつきが赤線で描かれている

「紅の豚」(c)1992 二馬力・GNN

簡単な鉛筆描きのものながら、画角の広さや背景と動画のパース、カメラワークのためのフレーム、BOOKの指示や数値、色彩設計の明度指定など、スタッフへのさまざまな指示が手書きで書き込まれたこの一枚の絵には、作品の完成度に密接に関わるさまざまなイメージやアイデアがふんだんにこめられ、そのカットの実像、ひいては作品全体の世界観にも通じるものも盛り込まれており、単なる作業指示書としてしまうには惜しいまでの、価値に満ちあふれている。これは人の手によって実際に描かれるアニメーションならではの、熱さや豊かさを感じさせる、他に類を見ないアートと言える。

「おもいでぽろぽろ」(c)1991 岡本蛍・刀根夕子・GNH 車好きの高畑監督らしく、車内を緻密に描いている

「耳をすませば」(c)1995 柊あおい / 集英社・二馬力・GNH 月島雫が「天守の丘」の高低差のある階段を下る印象的なカット。BGと手前の木々(Book A、B、C)が異なる速度で動く、細かなFollowの指示がされている

会場は3つのゾーンによって構成されている。はじめはスタジオジブリの各作品にフォーカスした『第1部 スタジオジブリ作品のレイアウト』にはじまり、次にスタジオジブリ以前の高畑・宮崎両監督の作品にフォーカスした『第2部「レイアウトシステム」のはじまり』となっており、レイアウトの役割やその高い芸術性が紹介される。しかしながら、テーマとしては専門性が高く、本来ならアニメ制作の関係者やよほどのマニアでなければ興味を持たないような内容だけあってか、柊留美さん(『千と千尋の神隠し』の千尋役)がMCを務めるわかりやすいコメントが付けられた楽しいオーディオガイドによって、アニメーションのしくみに不案内な向きにも充分理解できるように配慮されている。最後には、レイアウトのしくみやアニメーションの楽しさに触れる事ができる、子どもも大人も大いに楽しめる体験ゾーンが用意されている。次ページからは、同展のみどころを紹介していこう。