市街地でも持て余さない特性

しかしスピードトリプルをしばらく走らせていると、扱いが意外にラクなことに気付いた。まず豊かなトルクとごく自然なクラッチのおかげで、スタートがとてもラクチンである。2気筒ではクラッチミートがデリケートになるし、4気筒は回転数に気を遣う(もちろんそうではないバイクもある。あくまで傾向)。3気筒は非常にナチュラルだ。何も考えずにいける。トラクションも高い。街乗りレベルでも、いつもグリップしている感じが伝わってくる。

街での乗車感は、やはり高いところからハンドルを操作している感じだ。ただ、ステップ幅は4気筒ほど広くなく、足元の操作は自然に行なえる。タンクも妙な左右への張り出しは少なく、脚の動きをじゃましない。ポジションも首が疲れるほどキツいわけではなく、視界が狭くなるようなことはない。気になるといえば、やはり極端なバックステップか。下半身はキツく曲げられ、バイクを抑え込むようになる。それで思い出したのがプレスライダーの乗り方だった。視線は高めにして歩行者や割り込んで来るクルマを絶えず監視し、ステップにつま先を乗せ、下半身でバイクを瞬間的にコントロールするアレである。

リヤサスペンションは固い。けっして動きが悪いわけではないのだが、"いったい設定体重は何kgなんだ?"と思うほどプリロードがかけてある。80kg近い私が乗っても、ほとんど沈まない。リヤプリロードを下げようと思ったら、取扱説明書にはユーザーはいじるなと書いてある。調整も面倒な皿状の二重ナット式だ。しかたなく、そのまま乗ることにした。

対して、フロントサスペンションはよく動く。加えてホイールベースが短めに設定されている。その結果どうなるかというと、後輪を軸に車体が前後に動くように感じられ、少々落ち着かない。ただ、フロントサスがよくできているのと重心が低めのため、イヤなピッチングが起るようなことはない。リヤサスペンションが固めなのも効いている。しかしブレーキ時にはフロントが食い込むように下がっていく。上手い人が乗れば、そのままジャックナイフに移行できるだろう。

ラジアルマウントのフロントブレーキは非常に強力である。しかし市街地走行のレベルでは制動の立ち上がりが急すぎ、いわゆるカックンブレーキに近い状態となる。もう少し自然に立ち上がってほしい。対してリヤブレーキはコントローラブル。市街地はもちろん、ワインディングでも効果的に使えた。

シフト操作もいい。国産車などに比べると若干シフトストロークが長いようにも感じるが、妙にこじる必要もなく、素直にシフトチェンジできる。外国車だとこのあたりにがさつさを感じるものが少なくないが、スピードトリプルはよくできている。十分に熟成されているのだろう。

大柄なバイクだが、市街地の曲がり角でも持て余すことはない。後で述べる重量配分の良さのためだろうが、パタンと倒れてしまいそうなデリケートさはなく、重心が低すぎるもどかしさもない。スムーズにリーンし、ストレスなく曲がっていく。

気になったのは、赤信号が遠くに見えたようなシーンで、高めのスピードからエンジンブレーキで自然にスピードを落とす際、フロントが左右にプルプルと震えることだった。フロントサスペンションの剛性が低いとは思えないので、フレームとフロントサスペンションのバランスだろうか(編注:タイヤが原因の場合もある)。

ライディングポジション。ステップはかなり後退している。ハンドルは広めだが、それほど遠くない

足付き性を見る。ライダーは身長178cm。両足は付いているが、かかとは浮きぎみ

Uターン(1)。ハンドルをほぼいっぱいに切り、半クラッチで旋回している

Uターン(2)。Uターンのしやすさは一般的。切れ角はあまり大きくない

Uターン(3)。リーンアウトで車体を倒さなくても曲がってくれる