今回取り上げるのはトライアンフの「スピードトリプル (Speed Triple)」である。しかしこれを書いている現在でも、"スピードトリプルを「オトナのバイク」として薦めてよいものだろうか?"と、いまだ悩んでいる。そのくらいインパクトのあるバイクだった。

スピードトリプルの歴史

トライアンフは名家である。同社が初めてモーターサイクルを世に送り出したのは1902年のこと。ハーレーダビッドソンよりもわずかに早く、現在操業している二輪メーカー(ブランド)としては、もっとも歴史が長いという栄光を担っている。

しかし名家には没落が付きものである。トライアンフもそれを経験した。原因は日本製品。1960年代、世界中に進出した日本製のモーターサイクルは値段の安さと高品質で世界中を席巻し、倒産に追い込まれるメーカーは少なくなかった。トライアンフもそのひとつであり、1983年、いったんその幕を閉じることになる。しかしその後、不動産開発業で財を成した実業家ジョン・ブルーア氏がトライアンフのブランドやライセンスなどを買い取り、新しい会社としてスタートした。

1990年のケルンショーで新生トライアンフは公開された。3気筒や4気筒の水冷エンジン、1気筒あたり4バルブ、ダブルオーバーヘッドカムシャフト(DOHC)などを採用。これらの特徴は以前のトライアンフとはまったく異なるものだった。

もうひとつの特長は「モジュラーコンセプト」にある。これは可能な限り部品の共通化を行なうもので、開発のコストを下げるのに重要な役割を果たした。たとえば1気筒あたり300ccで設計すれば、3気筒で900cc、4気筒で1200ccとなる。この手法により新生トライアンフは、3気筒748cc、4気筒998cc、3気筒885cc、4気筒1,180ccのラインナップでスタートした。またモジュラーコンセプトは、ひとつををじっくりていねいに設計すれば、すべてが良いものになるというメリットもある。新生トライアンフは好評を持って市場に受け入れられた。

なかでもヒットしたのは、1994年に登場した初代「スピードトリプル」である。885ccの3気筒エンジン(97bhp)を搭載していたが、スポーツバイクの「デイトナ 900」からカウルを取り去ったような斬新なデザインで、カフェレーサーの雰囲気をまとっていた。このスピードトリプルはのちにワンメイクレースも行なわれるほど高い人気を得た。

1997年には日本製のスーパースポーツに対抗すべく、ハイチューンエンジンと軽量ボディをもつ「T595 デイトナ」(3気筒 955cc)が登場する。それに合わせてスピードトリプルも新しくなり、「T509 スピードトリプル」となった。最高出力は108bhp。1999年にはスタイルはほぼ変わらないものの、デイトナの進化に合わせ、955ccの3気筒エンジンを搭載した。最高出力は108bhpで前モデルと変わらなかったが、2002年には118bhpまで引き上げられている。また、「T595」「T509」という型番表記はわかりづらいと不評で、その後は使われていない。

そして2005年、スピードトリプルには1,050ccのエンジンと全く新しいフレームが与えられ、ほぼ現行モデルと変わらないスタイルができ上がった。最高出力は128bhp。それまでトップモデルだったデイトナが600ccクラスに移行したこともあり、スピードトリプルはベースモデルを持たないことになった。

新生トライアンフの各モデル。※写真はトライアンフのホームページより

1995年モデルのスピードトリプル。初代モデルもほぼ同じ

2001年モデルのスピードトリプル。1997年からスタイルはほぼ同じ。シート下のダクトが特長

2003年モデルのスピードトリプル。最高出力が118bhpに引き上げられた(2002年より)。シート回りも従来モデルとは異なる

2005年にフルモデルチェンジを受けたスピードトリプル。1050ccエンジンを搭載

2008年モデルのスピードトリプル。最高出力は128bhp。今回試乗したモデル