展覧会「杉本貴志展 水の茶室・鉄の茶室」がギャラリー・間(東京都港区)にて開催されている。5月31日まで。

会場には、2つの茶室が展示される。ひとつは、鉄の廃材でつくられた"鉄の茶室"、もうひとつは、水を用いて制作された"水の茶室"だ。茶室とは、「茶の湯」のために設えられた日常から切り離された"特殊空間"。今回の展示では、日本の文化の象徴ともいえる茶室をデザイナー・杉本貴志氏が既成概念を超える斬新なアイディアをもとに創出したという。

プロフィール
杉本貴志氏
1973年にインテリア設計事務所「スーパーポテト」を設立し、商業空間デザイナー、フード・ビジネスの経営者、大学教授などさまざまな顔をもち活躍するアーティスト。代表作は「グランドハイアット東京」、「SHUN/KAN」、「無印良品」、「パークハイアットソウル」、「ハイアットリージェンシー京都」ほか。現在も、上海、ニューヨーク、ソウルなど世界各地でプロジェクトを進行中

水の茶室

光を宿した水滴は、はかなく脆い硝子ビーズのようだ

まず、"水の茶室"が展示されるスペースへと足を運んだ。杉本氏は「水は常に人といるもの。(その水を用いて制作することで)様々なものとの出会いや記憶を呼び起こすものになる」と語っているという。

同作品では、暗闇の中でワイヤーをつたい均一にしたたる水滴がライトアップされ、その幾多の光の筋が茶室の壁をつくりあげている。静まり返ったその空間で、滴る水を見つめていると、その空間内だけ別の時間が流れているかのような錯覚を覚えた。ちょうど砂時計の砂が落ちていくように、水滴のひとつひとつが時間を刻んでいるように見えるのである。

また、光を宿した水滴の幻想的な美しさに吸い込まれ「思わず(壁に)手を触れてみたくなってしまうお客様も多い」(同広報)そうだ。残念ながら触れることは禁じられているのだが、外から眺めるだけではなく茶室にあがることも許されており、空間全体を体感することができる。

一方、鉄の茶室は、1993年に裏千家の茶会、茶美会(さびえ)"素"のためにつくられたもの。2002年にニューヨークで行われた「The New Way of Tea」展にて公開され、実際に茶事もとりおこなわれている。

鉄の茶室

同作品について杉本氏は「(鉄の茶室は)茶という概念と改めて向かい合ったことや、今は亡き伊住政和氏や田中一光氏の記憶と共に、僕にある重さを与え続けている」としている。工業製品の廃材から生み出された空間は独特の強さを持って鑑賞者を包み込み、素材に刻み込まれた時間や歴史を彷彿とさせてくれる。実際に中に入り、正座したときに感じたのは床に敷かれたイグサマットの荒っぽい質感。縄状に編まれたイグサのざらざらとした感触、そして茶室内の花器に生けられた花に、日本文化のわびとさびを感じざるを得なかった。

会期中は、展示されている茶室を利用してお茶会も予定されている。参加は無料だが、希望者多数の場合は抽選となる。開催日時などの詳細は公式サイトで確認できる。"水"と"鉄"という2つの異質な素材で構成された茶室を体感し、その空間にながれる時を味わっていただきたい。

展覧会名 杉本貴志展 水の茶室・鉄の茶室
会場 ギャラリー・間
会期 2008年4月5日(土)~5月31日(土)
開場時間 11:00~18:00(金は19:00まで)
休館日 日曜・月曜・祝日
料金 入場無料
特別協力 裏千家